
逃げ上手の若君を全巻無料で読む方法はあるの?






逃げ上手の若君の最新刊の発売はいつ?
逃げ上手の若君の漫画を全巻無料で読む方法を徹底調査しました。
調査の結果、逃げ上手の若君を1番オトクに読めるサイトはコミック.jpとなりました。
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【逃げ上手の若君 作品基本情報】
作品名 | 逃げ上手の若君 |
作者 | 松井優征 |
巻数 | 単行本5巻まで |
掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
あらすじ | 1333年、鎌倉――。幕府の後継として生きるはずだった少年・北条時行は突然の謀反で故郷も家族も全て失う。しかし時行は、生き延びることに関しては誰よりも秀でていた。信濃国の神官・諏訪頼重に誘われ、少年は逃げて英雄になる道を歩み始めた! |
公式サイト | — |
逃げ上手の若君の最新刊の発売予定日
逃げ上手の若君の最新刊5巻の発売予定日は2022年4月4日です。
次回の配信をお楽しみに。
逃げ上手の若君を全巻配信している電子書籍ストア
ストア名 | 配信状況/特徴 |
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残念ながら、逃げ上手の若君のマンガを全巻無料で一気に読む方法はありませんでした……。
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逃げ上手の若君を全巻配信しているアプリ一覧表
逃げ上手の若君を漫画アプリで読めるか調べた結果、以下のアプリで全巻配信していると分かりました!
- ピッコマ
- LINEマンガ
その他の配信状況は以下の一覧にてご確認ください。
また、アプリ内で全巻配信中でも全巻無料ではないのでご注意ください。
アプリ | 1巻~最新刊配信状況 |
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ピッコマ | 〇 |
LINEマンガ | 〇 |
サンデーうぇぶり | × |
ゼブラック | 〇 |
少年ジャンプ+ | 〇 |
逃げ上手の若君は違法海賊版サイトで読めるか
逃げ上手の若君のコミックは違法サイト・漫画海賊版サイトで読めるのでしょうか。






「読める・読めない」というのを違法サイトで調べること自体、ウイルス感染リスクが高い非常に危険な行為です…!
まず、違法サイトで読むと間違いなく自身と出版社に不利益がもたらされます。
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例えば毎週ジャンプの人気少年漫画のネタバレを見ているとします。
すると最新話の内容が分かるので、単行本を購入しなくなりますよね。
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数百円のマンガを無料で読むために、数万円も機器の修理費を払っていては大損ですよね。
逃げ上手の若君の1巻から最新刊までのあらすじ
逃げ上手の若君のあらすじを最新刊まで一気にご紹介します。
ネタバレを含む内容もありますので閲覧にはご注意ください!
逃げ上手の若君1巻あらすじ
1333年、鎌倉――。幕府の後継として生きるはずだった少年・北条時行は突然の謀反で故郷も家族も全て失う。しかし時行は、生き延びることに関しては誰よりも秀でていた。信濃国の神官・諏訪頼重に誘われ、少年は逃げて英雄になる道を歩み始めた!
2話
頼重の領地で匿うと聞かされ、彼と一緒に逃げ出した時行でしたが、何日も鎌倉の廃屋に隠れたまま、一向に脱出できずにいました。
どうやら鎌倉の出口が思ったより厳重に塞がれているらしく、監視が緩むまで我慢するしかないようです。
神が宿る頼重の眼には、時行がこの廃屋で死ぬ未来は見えないらしく、頼重は不安そうな時行に安心して脱出の機会を待とうと告げます。
しかし廃屋の隙間から外を見ると、時行が見知った旗印がいくつも見えました。
幕府に忠誠を誓っていた武士たちが、簡単に裏切り鎌倉を廃墟にしたのです。
何より時行にあれだけ優しい笑顔を向けていた足利高氏が、幕府を滅ぼす謀略を進めていたことも判明し、時行は自分を助けた頼重たちのことも信じられずにいました。
その時、廃屋の外から話し声が聞こえてきました。
その内容は時行の兄である邦時が、捕まって斬られたというもの。
それを聞いた時行は、たまらず外に飛び出し「嘘だッ!!」と叫びます。
時行は邦時が五代院の伯父である五大院宗繁に護られて、無事に逃げたと聞いていたため、死ぬはずがないと考えていました。
しかし彼らによると、宗繁は邦時を隠れさせた居場所を、そのまま敵の新田方に密告。
邦時は即刻、刑場で斬首されてしまったようです。
甥の七光りで出世しておきながら、実の甥で主君の子で9歳の幼子を秒で敵に売った五大院宗繁は、日本史上屈指の鬼畜武将として名を残していました。
宗繁は懸賞金目当てだったようですが、鬼畜の所業で新田方からも忌み嫌われ、何一つもらえず追い出されたようです。
それを聞いた時行は激しいショックを受け、吐いてしまいました。
代々仕えた足利が裏切り、侍たちも裏切り、伯父にまで裏切られ、信じられるものは誰一人いないと涙を流す時行。
すると神力により未来が見える頼重が、宗繁が座る未来が見えると言い、周りに敵兵が多くてうかつに手を出せないと話します。
そのため見に行きましょうと、時行の手を引く頼重。
頼重は鬼ごっこで勝つとはどういうことか教えると言い、兄の仇討ちを持って時行の天下への第一歩としようと提案しました。
その頃、宗繁は敵兵だらけの場所で座り込み、考え事をしていました。
自分の人生のスゴロクを上がるには、邦時程度じゃ賽の目が足りないのだと考える宗繁。
ならば正室の子を捕えればと、時行の姿を頭に浮かべます。
真の跡継ぎを捕えて差し出せば、皆が自分を認めざるを得なくなると宗繁はほくそ笑んでいました。
その姿を草むらの陰から見つめる時行たち。
頼重は時行という極上の獲物を標的にしたとき、欲深き鬼畜は地の果てまで追ってくるオニと化すと話します。
そして追い来たる鬼を討ち取りましょうと、刀を取り出す頼重。
その後、宗繁は森の中で時行を探し始めました。
宗繁は時行を諏訪頼重の手で信濃に逃がすと聞いていました。
しかし信濃に通じる道は未だ厳重に塞がれているため、時行はその近辺に潜み、脱出の気をうかがうはずだと考えます。
宗繁も鎌倉で生まれ育った身として、潜むのに適した場所は熟知していました。
そしてすぐさま時行を見つけ出す宗繁。
時行の姿を見た瞬間、宗繁は(・・・ああ、何と美味しそうな)と感じながら、不敵な笑みを浮かべます。
そして宗繁は時行が頼重と逸れたのだと思い込み、自分と共に逃げようと声をかけます。
そんな彼に、なぜ兄上を売ったのかと問いかける時行。
次の瞬間、隠れていた時行の仲間たちが宗繁の背後から襲い掛かります。
しかし宗繁は刀で、それを防ぎました。
そんな彼の動きに驚く時行たち。
すると宗繁は、自分が邦時の護衛を任された理由は叔父だから、重臣だからというだけではないと話し始めます。
「任される程度には私・・・強いんですよ」
そう言いながら、背後の木を切り倒す宗繁。
そして時行も刀を手に取り、襲い掛かってくる宗繁を迎え撃つのでした。
3話
宗繁と時行たちの戦いが始まりました。
しかし早速宗繁の刀に弾き飛ばされてしまう時行。
頼重の仲間である弧次郎と亜也子が時行を守ろうとしますが、宗繁に軽くあしらわれてしまいます。
宗繁には隙もなく腕力もあり、防戦一方となっていました。
弧次郎も亜也子も時行よりはるかに強いのですが、まだ子供なので大人との力の差は歴然。
奇襲が失敗してしまえば勝ち目はありません。
その時、宗繁は余裕の笑みを見せながら、弧次郎たちを蹴散らし、時行に迫ってきました。
手間取らせんな、お前の兄は無抵抗で捕まってくれたぜと叫ぶ宗繁。
幕府は足利に滅ぼされ、時代は乱世になりました。
宗繁は裏返ったスゴロクの盤面に瞬時に適応できた者しか生き残れないと考えながら、刀を振り上げ時行に襲い掛かります。
そんな中、頼重が姿を現し、弧次郎と亜也子にお前たちは退くのだと指示しました。
亜也子は時行を護らなければ殺されてしまうと慌てますが、頼重は落ち着いた様子で乱世に適応する力があるのはどちらなのか、じっくり見るがいいと戦闘中の時行たちを指さします。
時行は宗繁の速い太刀筋を全て見切っており、どこか楽しむように避け続けていました。
それは稽古で学べる動きではなく、天性の逃げ上手なのです。
頼重は時行について、臆病なのではなく純粋に逃げるのが大好きなのだと話します。
一歩間違えば致命傷、捕まれば即死、そんな窮地を心から楽しめる生存本能の怪物なのです。
しかし頼重は時行が何より魅力的なのは、逃げ以外はごく普通の人間であることだと語ります。
時行はどれほど逃げに徹していても、邦時の仇を前にした戦場からは決して逃げていませんでした。
乱の前、平和な鎌倉での時行は気さくで威張らず、心優しく仲間思いで、いさかいを嫌い、嫌な稽古から逃げる癖が短所のどこにでもいる平凡な子供でした。
一方で戦場では大の猛者相手に楽しそうに鬼ごっこに興じる痛快な怪物です。
頼重は雫と弧次郎と亜也子に、そんな主君に仕えてみるのは楽しそうだと思わないかと問いかけます。
弧次郎は逃げ自慢の大将なんて聞いたことないと言いつつも、頼重がそう言うなら面白そうだと話し、亜也子や雫も同意しました。
すると頼重は、もう一度行ってきなさいと弧次郎たちに命じます。
護ろうとするのではなく、時行の逃げ上手を信頼するのだという頼重。
その代わり時行は攻撃の方はまるでダメなので、弧次郎たちで一太刀浴びせる隙を作るよう指示しました。
一方宗繁は時行になかなか攻撃が当たらず、イライラしていました。
避けるばかりでろくに刀も振れない時行ですが、眼力だけは強く、睨まれて思わずゾクッとする宗繁。
もしも時行に一生逃げながら命を狙われ続けたら、どんな豪傑もいずれは死に追いつかれてしまうのではないかと宗繁は感じました。
その時、弧次郎と亜也子が合流し、宗繁に怒涛の攻撃を始めます。
宗繁はその攻撃を刀で受け止めますが、猛攻を受けて徐々に時行の方へと近づいていきます。
どうやら彼らは時行の方へ宗繁を押し込むつもりのようです。
敵から主君を護るのではなく、逃げる主君に敵を差し出す感覚で、宗繁を時行の方へ追い込んでいく弧次郎と亜也子。
そして隙をついて亜也子が宗繁を蹴飛ばすと、宗繁はバランスを崩して地面に倒れ込みました。
さらに弧次郎は落とした刀を拾おうとする宗繁の手を踏みつけ、「今だ若!!」と叫びます。
すると時行は岩場を伝って高く飛び上がり、宗繁に向かって刀を振り上げました。
(兄上、父上、鎌倉の民たち。こんな首では不足だが、せめて死出の旅路の手土産に!!)
そして時行は宗繁の首を斬り落としました。
その後、頼重は初陣を飾った気分はどうだったかと時行に尋ねます。
時行はただ夢中で逃げていたら、いつの間にか敵の首が目の前にあったと話しますが、弧次郎たちに礼を言いました。
すると頼重は鬼ごっこで戦に勝つには条件があると話し始めます。
時行が戦場で最優先に狙われる貴重な将であること。
刀となるべき信頼できるなかまを持つこと。
これら2つを満たすには、時行が北条の遺児たる誇りを忘れず、人が惹かれる正しい人間であればいい、そうすればいつかどんな鬼でも倒すことができると頼重は言いました。
時行はいつか必ず鎌倉に帰り、全ての元凶である足利を倒すと決意しました。
こうして時行は辛うじて滅ぶ鎌倉から逃げ延びました。
そして微小の体に余る巨大な宿命を秘め、のちに天下を震撼させる少年は新天地にて成長していくことになるのでした。
4話
鎌倉を脱出した時行は、なぜか巫女に囲まれ、昆虫食を食べさせられていました。
耐えかねて逃走する時行ですが、落とし穴に落ちてしまいました。
そんな時行に頼重が怪しい笑顔で挨拶します。
どうやら頼重が傷心の時行を朝食と人肌で温めるよう巫女に命じたようです。
落とし穴は時行がここを逃げて通る未来を拾ったため、仕掛けたとのこと。
この場所は神気に満ちており、自分の神力も絶好調で、時行がどこへ逃げてもすぐに分かるという頼重。
なぜならそこは彼の庭で、本領である諏訪大社なのです。
信濃国の諏訪大社は日本最古級の神社の一つ。
亡国の貴公子、北条時行を匿ったのが、この諏訪大社当主である諏訪頼重でした。
すると頼重は鎌倉幕府再興の象徴となるお方が、時間を無駄にはできないと言いつつ、今日から早速武芸と学問で訓練すると時行に告げます。
嫌がって逃げようとする時行ですが、別の落とし穴に落ちてしまいました。
そんな時行を笑う頼重。
怒る時行に頼重の娘である雫が代わりに謝ります。
頻繁に奇行に走るし意味不明なことも供述するけど、悪気はないから安心してくださいという雫に、それを聞いて誰が安心できるんだと返す時行。
時行は頼重には命を救ってもらったことを感謝しているものの、今後の現実的な計画などあるのかと不安を覚えます。
鎌倉の鶴岡八幡宮よりはるかに小さなこの社の主に、自分を援けて鎌倉を取り戻し、足利高氏を倒す力があるとは思えませんでした。
そのため時行は、その後もひたすら逃げ続け、落とし穴にはまり続けました。
弧次郎は時行について幕府の跡継ぎで甘やかされて逃げ癖がついたんじゃないかと呆れますが、頼重はそれは違うと否定し、根は素直で真面目な方だと話します。
お飾りの王となる定めで育てられ、人生に自分の大きな目標がなかったため、真剣に学ぶ意味を感じ取れなかっただけなのだと時行について語る頼重。
そして頼重は足りないとするなら、時行の目標を援ける力があるかどうか、まだ示していない自分の方だと話しました。
後日、土砂降りの中、逃げ出す時行。
そこへ頼重がニコニコしながらやってきました。
時行は怪訝そうな表情で頼重を見つめながら、学問などしなくてもあなたの希望には沿える、例えあなたの軍が敗けている最中でも戦場で逃げ回っていればいいと言います。
それに対し頼重は、敗けることなど神に誓ってあり得ない、なぜなら自分が本物の神様だからだと言い放ちました。
そんな彼の言葉に、呆れて返す言葉もない時行。
すると頼重は雨が邪魔で見せたいものが見えないと空を見上げ、「今晴らしまする」と言いながら、鈴を鳴らし始めました。
この時代の日本には「人でありながら神」、「現人神」として大勢の信仰を集める人間が大きく三人存在しました。
一人は京の天皇、一人は出雲大社の当主。
そしてもう一人は諏訪大社の当主でした。
頼重が何かの儀式を始めると雨が止み、やがて日が差しました。
さらに霧が晴れると崖の下に大勢の武士が姿を現し、頼重の掛け声に合わせて「おうっ!」と拳を突き上げます。
その光景に圧倒される時行。
諏訪は武将と神官と「神」の役割を兼ね備えたきわめて特異な大名であり、頼重もまた諏訪明神をその身に宿した現人神として、この地において絶大な崇拝を集めていました。
諏訪明神を信ずる武士で構成された「諏訪神党」は、頼重への信仰の下、精強にして鉄の結束を誇るのだとか。
頼重は時行に、「神」がついているのだと改めて言います。
その上、時行が英雄たる資質を身につければ英雄と神が組むことになり、何倍もの武士が味方に付くという頼重。
「さて今日は何をいたしましょうか?」
そう問いかける頼重に、時行は俯きながら「机に戻って・・・学びます」と答えました。
そんな彼を「よう申されましたな~!!」と嬉しそうに抱きしめ、頬ずりする頼重。
時行はそれを嫌がりながらも、きっと予知通り自分を英雄にしてくれるだろうと頼重を信じることにしました。
しかし次の瞬間、頼重は言質は取ったため、皆の衆もう帰って結構だと武士たちに告げます。
すると武士たちの態度が一変し、頼重をバカ明神呼ばわりしながら、立ち去っていきました。
彼らは面倒臭い頼重の元で暮らさなければならない時行に、同情している様子。
騙されたことに気づき、逃げ出そうとする時行を無理やり連れ帰る頼重。
諏訪頼重は時行の最大の理解者として少年に未来を指し示し、短い時間で計り知れない影響を与えました。
英雄の卵は神の懐で静かに牙を研ぎ始めるのでした。
5話
当時を伝える「太平記」によれば、全国に大勢力を誇っていた北条氏一族は、わずか四十三日で全滅したと言われています。
それはあまりに鮮やかなクーデター劇でした。
そして鎌倉幕府を倒した足利高氏は、首都・京都で大歓迎を受けました。
後醍醐天皇以下、長く鎌倉幕府に抑圧されてきた朝廷にとって、若き英雄は解放者だったのです。
後醍醐天皇から功を称えられた高氏は、朕の名から一字を授けて「足利尊氏」となりました。
さらに後醍醐天皇は新しき朝廷でやってみたき官職があれば、何なりと申せと尊氏に言います。
しかし尊氏はただの武辺者なので、筆仕事などとても務まらないと断ります。
その代わり、後ろに控える我が郎党共は自分にはもったいないほど心清く智勇秀でた者のため、この者たちに朝廷での仕事をいただけたなら幸せだと申し出ました。
朝廷に仕える公家たちは、その尊氏の穏やかな笑顔と謙虚さに惚れたようで、尊氏はすぐに彼らの信頼を獲得しました。
その夜、足利家執事の高師直と2人きりになった尊氏は、我が郎党は我が宝、お前が万事仕切ってくれと伝えます。
そんな彼に、師直は幼少の頃からお仕えしているが、殿の笑顔は最近ますます人間離れしていると話しました。
「戯言を申すな。頼んだぞ。皆で帝をお支えするのだ」と返す尊氏。
彼の表情は穏やかに笑みを浮かべているものの、目からは涙が流れていました。
そしてその目を開けると、複数の目玉がついていました。
こうして足利尊氏とその郎党たちは、ジワリと浸食を開始したのでした。
一方諏訪での生活にも慣れてきた時行に、頼重は味方を増やすため、時行だけの郎党を集めると言います。
有力武将と主従関係を結び、命がけで戦う配下を「郎党」と呼びます。
郎党の強さこそが、主君の強さそのものになるのです。
近しい家族や家臣をすべて失った時行は、一から郎党を作り直さなければなりません。
そして頼重は改めて、これまで行動を共にしてきた子供たちの紹介を始めます。
まず弧次郎は同世代随一の刀の使い手で、いずれは軍を任せる武将として。
亜矢子は怪力無双にして芸才も豊かで、便所として陣中の共に。
雫はよく気が回り数々の秘術も使えるため、執事として家全般の取り仕切りを。
三人共時行と同い年ですが、自信を持ってお勧めできるという頼重。
まずは彼らと慣れ親しみ、使いこなしてみなされと指示します。
子供の頃から家族同然で共に育てば、将来固く結ばれた強い郎党となるのです。
そして今後も優れた者を見つけたら、どんどん誘って郎党を増やしていくのだと、頼重は教えました。
その後、時行は弧次郎たちと共に外で火を焚き、食事を始めます。
そんな中、命があれば何でもするという弧次郎に、鬼ごっこをしようと提案する時行。
しかし弧次郎は、時行が一度逃げたら地平線までいってしまうため、それは嫌だと拒否。
すると亜矢子が狩りをしようと提案しました。
時行は神社の者が殺生していいのかと疑問を浮かべますが、雫は諏訪明神は狩りの神様でもあるため、ガンガン食べるしガンガン狩るのだと言いました。
ということで、矢を使って狩りを始める時行。
野兎を仕留めようとしますが、惜しくも当たらず、弧次郎が見通しが悪いと邪魔な木を切り倒します。
すると亜矢子は小さいのを弓で狙うのは面倒臭いと言いつつ、岩の塊を兎に向かって投げつけました。
兎はギョッとしながら逃げていき、岩の塊は地面に当たって砕け散ります。
それを見て、化け物だとドン引きする時行。
一方屋敷内にいる頼重は時行が狩りに出かけたことも、いかなる試練に出会うのかも見えている様子。
そんな中、時行たちの目の前で先ほどの兎が巨大な獣に食べられてしまいました。
飢饉が続き、戦や殺人が頻発していた鎌倉末期。
獣にとっては作物や果実より、人間の方が手に入りやすいご馳走でした。
この獣もまた人の味を憶え、次第に人を狩ることを憶えたのです。
そういう獣はこの時代の人々にとって魔獣でした。
雫は人を食べる巨大な牛鬼が山で出ると、隣国で噂になっているといいます。
その魔獣は明らかに獲物として時行たちを見ている様子。
この大きさでは矢も刀も急所に届かないと、亜矢子は怯えます。
頼重は優雅に食事をしながら、時行の仇である尊氏はその魔獣よりはるかに狂猛な郎党を数多従える男のため、郎党と力を合わせて見事仕留めてみなされと、心の中で時行に語りかけます。
そして牛鬼「牡丹」が、時行たちに向かって突進してくるのでした。
6話
牛鬼は時行たちに向かって突進してきました。
時行たちが慌ててそれを躱すと、牛鬼は勢い余って大木に激突。
その大木はメキメキと音を立てて倒れてしまいます。
弧次郎と亜矢子は弓矢で牛鬼を攻撃しますが、矢は肉にすら届かず、牛鬼を余計に怒らせてしまいました。
そして突進してくる牛鬼から、必死に逃げ惑う時行たち。
弧次郎は亜矢子と二人では手に負えないので、時行を手引きして逃げることを考えますが、いつの間にか木の上に避難していた雫が「倒せるよ」と言いました。
弧次郎と亜矢子の2人だけではなく、今は時行がいるという雫。
すると雫は時行に、その獣を避けながら引き付けて、あの丘の上まで連れて行ってと、ぽつんと立つカラマツの木が目印になっている丘を指さします。
さらにその間に弧次郎と亜矢子に、丘の上に先回りするよう指示する雫。
2人はその木の下に何があるのか知っているらしく、雫が何をやりたいのか察して時行に牛鬼を任せて、丘の上へと向かいました。
時行は避けながら連れて行けとか無茶だ、郎党が主君にとらせる作戦かと怒りつつも、神回避を連発しています。
すると亜矢子は丘の上から木の真下に向かって岩を投げ、ちょうどいい形に何かを加工。
弧次郎は枝刈りをして視界を良好にした後、牛鬼に向かって弓矢を放ちました。
矢が直撃してギョロッと目玉を向ける牛鬼に、弧次郎は北条時行一向に牙を向けたことを後悔させてやると煽ります。
すると牛鬼は激しく怒りを露わにし、弧次郎に向かって勢いよく突進してきました。
しかし弧次郎は追突する直前、サッと牛鬼を避けます。
牛鬼はそのままカラマツの木に追突し、勢い余って崖の上から落下。
雫は弓でも刀でも崖から落ちても、牛鬼が死なないことを知っていました。
しかし牛鬼が落ちた先にはあったのは、神様の刃。
諏訪名物、黒曜石の岩塊です。
黒曜石は簡単に割れて鋭く尖るもので、古くは獣を狩る石器に使われ、現代でも外科手術に使われるほど鋭利なのです。
先ほど亜矢子が鋭く加工したのは、この黒曜石でした。
崖から落下した牛鬼はその鋭い黒曜石に突き刺さって絶命し、見事に仕留めることに成功しました。
時行は弓矢の効果が薄いとみるや、三者三様に機転を利かせ、未知の怪物に全く臆せず対処した彼らに感服していました。
そんな中、弧次郎と亜矢子は、牛鬼の亡骸を見つめながら、何だったんだコイツ、こんな獣を見たことがないと話します。
すると雫は牛鬼の鼻を撫でながら、太古の獣の生き残りで子孫を残せる家族ももういないと言います。
助け合える相手がいたら魔道に堕ちることもなかっただろうと、切ない表情を浮かべる雫。
そんな彼女の言葉に、時行は無言でうつむきます。
すると亜矢子は時行に、お風呂に入らないかと提案。
それはもう一つの諏訪名物である温泉でした。
温泉に浸かった時行は一族が滅んだことがどうでもよく思えてくるほど、癒されている様子。
そして時行は弧次郎たちと楽しく話す中、全てを失った自分を元気づけようと、ごく普通に友のように接してくれて、主君として立てることも忘れないでくれる彼らに感謝し、この地で強くなろうと決意しました。
その後、温泉から上がった時行たちは、仕留めた牛鬼の元へと戻りながら、美味い部位だけ食べて頼重にはあとで報告しようと話します。
しかし頼重はすでに彼らが捕らえた獲物を、食べてしまっていました。
そんな頼重に怒る弧次郎たち。
頼重は魔道に堕ちた哀れな獣を聖なる腹の中で魂を清めてやったのだと言いますが、弧次郎と亜矢子は、うるせぇ肉返せ!と彼の腹を殴りました。
その頃、足利尊氏も狩りをしていました。
そんな彼に信濃守護に推薦していただき感謝しますと、頭を下げる男が。
その男は小笠原貞宗という名前で、真っ先に北条を見限り、尊氏の郎党となって戦った人物のようです。
尊氏は信濃には北条郎党の筆頭格・諏訪が健在のため、北条の残党が必ず逃げ込み、潜んでいるはずだと言います。
君なら探し出すことができるだろうという尊氏。
すると小笠原は我が弓と我が視力は天下一、どんな小虫も見つけ出し、射殺して御覧に入れましょうと告げるのでした。
7話
戦車隊や歩兵隊、弓隊や槍隊、鎌倉時代にはそういった分業はなく、一人の武士が全ての武器を扱えることが必須でした。
そのため藁束を使って刀を練習する時行。
しかし藁束に刀が弾かれて、全く斬れません。
どうやら時行の筋肉は攻撃中でも常にすぐ逃げられる準備をしているため、へっぴり腰で刀を振ってしまっているようです。
五大院宗重に対して時行がしっかり首を落としていたのは、弧次郎と亜矢子の助けで逃げる必要がなかったうえ、兄の仇が相手だったために全体重を込めて振れたようです。
腰を入れて振る鍛錬をみっちり反復するべきだと弧次郎は言いますが、頼重がそれは逆効果だと話します。
攻撃の筋力を鍛えすぎると逃げ筋が衰えるので、攻撃も逃げも半端になり、時行の長所を消してしまうとのこと。
そこで時行は、そこそこ筋のいい弓の鍛錬をすることになりました。
頼重は大将たるもの逃げるだけでは、軍の士気を損なうため、時行の特性を活かして逃げながらも敵を倒す術を憶えさせたいと考えていました。
しかしそんな邪道を教えられる師が、どこにいるかと悩む頼重。
そんな中、西信濃の小笠原貞宗という男が突然頼重を訪ねてきました。
頼重は時行に念のため小屋に隠れておくよう指示を出し、貞宗と対面しました。
貞宗は頼重に、後醍醐天皇から信濃守護に任命されたと報告します。
すなわち今より自分は、頼重に命を下す立場になったのだと、すごい形相で迫る貞宗。
頼重一族の諏訪盛高は、つい先日まで諏訪の下働きだった貞宗が自分たちに命令することが許せない様子。
しかし貞宗は鎌倉幕府が滅んだ時、自分たちは逆賊・北条と戦い多大な功を立てた、それに引きかえ諏訪らは北条側に立って戦う者が多かったため、領地全没収でも文句は言えない立場なのだと主張。
さらに貞宗は北条一族やその重臣の生き残りを、諏訪で匿っているなら渡せと言い出しました。
その様子を小屋から見ていた時行は驚きます。
頼重は落ち着いた様子で、見てもいない者を渡しようがないと、しらばっくれます。
しかし貞宗は千里眼で、100メートル先の杉の陰から用心深く様子をうかがう武士二人や万一に備えて懐の小刀を握る老人、そして小屋の格子の隙間から覗き見る童たちを発見。
どれもこれも怪しく見えて仕方がない、近く必ず根こそぎ捕らえてやると言い放ちました。
そして去り際、貞宗は手土産がないため、せめて諏訪明神に鹿を一頭献上すると言うと、おもむろに弓を引いて、どこかに狙いを定めます。
諏訪大社では耳の裂けた鹿が獲れると縁起がいいそうですな、という貞宗。
彼が狙っていたのは、頼重の背後で様子をうかがっていた巫女の栄の耳でした。
そして見事に栄の耳に矢を命中させた貞宗は、耳の裂けた雌鹿一頭受け取れい!と高笑いしながら、去っていきました。
貞宗は天下に聞こえた弓の名手で、その弓を支える視力と観察力を持ちます。
そのため厄介な男が信濃守護になったものだという頼重。
時行はただの巫女に弓を引くのは武士として恥ずべき行いだと言いますが、弓だけは美しかったと語ります。
そんな彼の言葉を聞いた頼重は、何と素直で寛容なお方だと感心しました。
憎き敵でも良いものはいいと認める度量。
その資質は大将となるとき、必ず役に立つと頼重は考えます。
それと同時に、良い「師」が見つかったと、何かをひらめいた様子。
そして頼重は時行に次なる鬼ごっこは「隠れ鬼」だと告げました。
貞宗の目的は二つ。
北条の残党を捕らえることと、それにかこつけて諏訪の勢力を弱めること。
さらに時行の目的も二つあるという頼重。
それは絶対に正体を悟られないことと、貞宗の弓の技術を盗むことだと言います。
貞宗は守護の立場を悪用して、この先何度も諏訪の領地に因縁をつけに来るため、時行は何度もあの弓を見る機会を得ることになります。
そこで頼重は時行に、ある時は身を隠し、ある時は素性を隠し、つかず離れず奴の弓を観察するのだとミッションを与えました。
あの眼とあの弓から逃げ切る「隠れ鬼」。
いつバレるか、いつ射抜かれるかのハラハラドキドキの鬼ごっこに、時行の目は輝き心を躍らせるのでした。
逃げ上手の若君2巻あらすじ
8話
信濃守護補佐役の市河助房は、貞宗に三日後に諏訪大社で「犬追物」を開催するという話をします。
すると貞宗は諏訪頼重の勢力を弱め、北条の残党を探し出すいい策があると言って、助房に眼球を当てて何かを耳打ちしました。
犬追物とは当時のメジャースポーツです。
逃げる犬に殺傷力の低い矢を当てて得点を競うというもので、馬に乗って動く的を射るのです。
すなわち最も実践に近い訓練でもありました。
その犬追物に参加するため準備を整えた時行に、雫が「時行様。次の番頑張ってくださいね」と弓矢を渡します。
すると頼重が大勢の観衆が集まる前で時行の名を出すのは危ないということで、雫に違う呼び方を考えるよう指示しました。
それを聞いた雫は「じゃあ”兄様”で」と言って、恥ずかしそうに去っていきます。
そんな中、犬追物に信濃守護の貞宗が強引に飛び入り参加してきました。
そして犬が放たれると、貞宗は次々に矢を当てて高得点を叩きだしていきます。
そんな彼の見事な腕前に唖然とする時行。
当てた位置と射撃姿勢で得点が決まるのですが、貞宗は難易度が高く、高得点の姿勢かつ、全て急所の上半身に当てていました。
貞宗は現在個人の部で1位だと聞くと、飛び入りの役人が一位を取ってしまうとは目を疑った、これが戦の神・諏訪大社の犬追物なのかと、わざと大袈裟にリアクションします。
頼重一族の諏訪盛高は、まだまだ強者が控えていると彼に反論します。
すると貞宗は、その強者と一対一の勝負で賭けをしようと持ち掛けました。
その賭けとは、北条の残党を探している貞宗に、もし誰も弓で勝てなければ、諏訪領内で北条を捜索すること、怪しい者を捕らえて取り調べることを、一切邪魔しないと誓えという無茶な内容でした。
それでも貞宗は帝が任命した守護なので、頼重たちは軽々に手を出せず、片や貞宗も諏訪に正面を切って戦を仕掛ければ只では済みません。
そのため頼重は、自分と貞宗との戦なき戦の駆け引きなのだと考えました。
そして頼重は賭けに乗ることを決断し、自分たちが勝てば守護の権威を振りかざして、領地を荒らさないよう貞宗に要求します。
しかし貞宗は、かかったなと内心ほくそ笑んでいました。
貞宗は頼重が諏訪の主としての面子があるため、領民の前で挑発されたら受けざるを得ないと考えていました。
賭けに負けて大恥をかき、その後の捜索で北条が見つかれば隠蔽罪で、諏訪は没落し小笠原にひれ伏すのだと考え、ニヤつく貞宗。
そして貞宗は、どんな強者を出すのかと尋ねます。
すると頼重は、あなたごとき、こんな稚児で充分でしょうと言いながら、幕の内側で待機していた時行の手を引っ張り、外に出しました。
頼重は時行を「長寿丸」と紹介し、諏訪一番のヘタレなのであなたといい勝負だと貞宗を煽ります。
そんな頼重の言葉に時行は青ざめ、貞宗は怒っている様子。
それでも頼重は構わず、ただ勝ってもつまらないので取り決めを加えようと提案。
互いの身体に当てた場合も、犬と同様に得点になるようにしようと言い出しました。
頼重の思わぬ提案に、動揺する貞宗。
すると弧次郎たちが、頼重と時行を幕の内側に引っ張って、その対決に猛反対します。
しかし頼重は達人との戦いは人を大きく成長させると考えていました。
貞宗と競うことで、時行が新たな成長の扉を開ける未来が見えるという頼重。
さらに頼重は戦いの後、時行は何かカッコいい技を習得するかもしれないと断言しました。
そして北条の大将として危険を避けるか、北条の大将として成長するか、何をするかと問いかける頼重。
時行は足利尊氏の姿を思い浮かべながら、雫に矢を持ってくるよう告げ、自ら戦いの場に足を踏み入れました。
そんな彼の姿を見て、雫はあの人はこの先もずっと心に決めた大事なことからは、決して逃げないだろうと感じました。
そしていよいよ時行と貞宗の対決が始まるのでした。
9話
時行と貞宗の犬追物対決が始まりました。
貞宗は通常通り犬を得て得点を稼ぐか、人を得ても得点になるという特殊な取り決めに甘えて、時行を打ちのめすか考えます。
そして彼が選択したのは、やはり時行を狙うことでした。
しかし先に貞宗に矢を放ったのは時行でした。
矢は外れてしまったうえに、貞宗をかなり怒らせたようですが、時行は事前に頼重に当たらなくてもいいので、一本目の矢で貞宗の標的を完全に自分に向けるよう指示されていたのです。
売られた喧嘩は必ず買うのが武士という生物。
頼重の思惑通り、貞宗は撃ち返してきたため、時行はまずそれをかわしました。
次に頼重は貞宗の弓の唯一の弱点を利用する作戦を考えます。
貞宗は一射ごとに全神経を集中するため、矢継ぎ早の連射を嫌うのです。
そのため次の矢が来るまでに時間があるので、その間に犬を射て、先に得点を稼ぐという作戦を立てました。
頼重は時行のそばを当てやすく走るように調教した赤犬を、こっそり用意しており、時行はその赤犬めがけて矢を放ちますが、外してしまいます。
しかし再度挑戦し、何とか赤犬に矢がヒット。
一点を獲得しました。
その後も貞宗は、時行を狙って矢を放ちますが、時行はひたすら逃げに徹して避け続けました。
当時の弓矢の速度は現在より遅く、反応が良ければ避けることは不可能ではありません。
そして貞宗の弓矢はついに最後の一本になりました。
無得点の貞宗は、これを外せば負けが確定するため焦り始め、狙いを犬に切り替えようとします。
しかし今回の犬は諏訪大社選りすぐりの逃げ上手たち。
凄まじいスピードで動いており、貞宗といえど容易く当てられそうにありません。
それを好機に時行は残りの矢で貞宗に狙いを定めます。
焦りと迷いと狙われる恐怖で冷静さを失った貞宗は、犬もろくに射れなくなると頼重は読んでいました。
しかし貞宗は落ち着いた様子で、時行の右後ろの死角に入ります。
その位置ではどんなに身体をよじっても、貞宗を狙えなくなるのです。
戦になれば弓だけでは勝てず、有利な位置をとれる馬術も不可欠になります。
諏訪盛高はこれはもう「犬追物」ではなく、戦場と同じ「騎射戦」だと言います。
時行は必死に死角を外そうと馬を旋回させますが、貞宗は手綱も持たずに悠々と追尾。
頼重はその様子を見つめながら、貞宗は弓も馬も時行とは次元が違い、間違いなく天下有数の武人の一人だと考えます。
その武芸は後醍醐天皇からも絶賛され、帝自らのお墨付きとして「王」の字を華紋に入れることを許されました。
貞宗が形成した武術の流派は二十一世紀の現代まで伝わり、繁栄しています。
そして時行が馬の操術に気を取られ、矢の回避が頭から完全に消える瞬間。
その一瞬の隙をついて、貞宗は矢を放ちました。
すると時行の頭に貞宗の矢が直撃。
貞宗は5点を獲得します。
威力を弱めた矢とはいえ時には犬の骨も折る代物。
それが頭に直撃した時行は、意識がもうろうとしている様子。
貞宗はそんな彼の姿を見つめながら、自由に人でも犬でも狙うがいいと余裕の表情で告げ、弓を投げ捨てます。
とはいえ、この死角は決して譲る気はなく、時行が犬を射ようとしても、馬をぶつけて妨害すると宣言する貞宗。
時行の頭からは出血していました。
その血を見つめながら、痛い、敵わない、怖い、本物の矢だったら死んでたと感じる時行。
しかしそれ以上に楽しいという気持ちが勝り、彼の眼はキラキラと輝いていました。
10話
犬を射ようと構える時行ですが、その途端貞宗が死角から体当たりをしてきました。
貞宗は徹底して時行を邪魔する気のようです。
その時、頼重が時行に向かって、ただの射撃では敵わない、「逃げながらの射撃」を編み出せと指示しました。
それを聞いた時行は馬を操って貞宗から逃げ始め、貞宗は彼を追いかけます。
すると時行は自分から犬を追うときは、緊張で手元も見えなかったのですが、逃げると頭がさえて全て見渡せるようになりました。
そして先ほどの貞宗の熟練の弓を思い出す時行。
貞宗は時行の動きを先読みして弓を構え、射る瞬間は上半身がピタリと止まりますが、未熟な時行には真似ができません。
標的は遠く小さく予測できず、上半身を制止しようにも死角からの体当たりがくるのです。
しかしそう考えた直後、時行はある瞬間だけ自分でも解決できる方法があるとひらめきます。
そして再び犬に向かって弓を構える時行に、すかさず貞宗が死角から妨害しようとします。
その瞬間、時行は体の向きを変えて、後方へと弓を構えました。
それは「押し捻り」という後方への射撃技です。
貞宗は必ず死角から接触してくるため、角度も距離も確定しており、犬より大きい的なので狙いやすいのです。
しかし「押し捻り」でも狙えないから、死角というのだと嘲笑う貞宗。
馬にまたがった体勢では、それ以上身体を捻ることはできず、貞宗を射程内に捉えることができませんでした。
すると時行は片足を外して一本足で馬に乗り、さらに身体を捻って死角にいる貞宗を捉えました。
そして貞宗の首に見事矢を命中させる時行。
貞宗は落馬し、時行は押し捻りの首で二点を獲得しました。
頼重は、時行は曲芸射撃を可能にする平衡感覚と柔らかい身体を持っており、その潜在能力は逃げる時こそ花開くと言います。
弧次郎は時行の得意技は押し捻りだと言いますが、頼重は未来ではもっと少年心をくすぐる通称で呼ばれるようだと不気味に笑います。
紀元前、中東の国家パルティアが世界最強だったローマの大軍を、この後ろ射ちで撃破しました。
接近しては逃げながら射つ一撃離脱を延々と続け、ローマ軍の重装歩兵は手も足も出ず力尽きました。
パルティアのとった後ろ射ち戦術は現代においても、「逃げながらの攻撃」の代名詞となっています。
そして時行は最後の1本となる矢を落馬した貞宗に向けながら、彼に向かって馬を走らせます。
貞宗は頭さえ守れば得点は低いと考え、必死に腕を前に構えて頭を防御しようとします。
しかし時行は馬で貞宗を飛び越えて背後に回り、身体を捻りながら、後ろから彼の頭めがけてパルティアンショットを放ちました。
矢は見事に貞宗の耳に命中し、時行は押し捻りの頭で3点を獲得。
結果5対4で時行が勝利しました。
そして呆然とする貞宗に、時行はあなたが射た巫女の耳のお返しだと言い放ちました。
その後、頼重はまだまだ逃げながらの戦いを開発していくと告げ、時行は頷きます。
そして頼重は賭けの約束通り、我が諏訪から立ち去り、今後一切手出しをしないでいただこうと、貞宗に言いました。
しかし貞宗は犬追物などただの余興だ、逆族に与した貴様らは近いうちに所領没収だ、北条残党などその後ゆっくり探してやるわ!と捨て台詞を吐きながら、退散していきました。
貞宗は頼重が、なぜ時行を出してきたのか不思議でした。
弓も馬も稚拙にブレて定まらず、自分の耳に当てたのも偶然で、確実な勝算があったとはとても思えないと考える貞宗。
そして彼は時行の立ち居振る舞いに、あの年齢では身につかない上流階級の品を感じていました。
まさか北条の一族ではないかと考える貞宗ですが、そんな重要人物を真っ先に自分の前に出すはずがない、頼重の意図が分からないと混乱している様子。
そんな中、頼重は北条一族らしき者が潜伏している噂を、諏訪も含めて全国各地に流していると時行に知らせます。
全国どこでも怪しいとなれば敵方の注意は分散するため、その間に頼重も時行も力を蓄えることができると考えたようです。
そして頼重は逃げながら進める戦、天下への道のりはすでに走り出しているのだと、時行に話すのでした。
11話
時行は大量の書物を重そうに運びながら、幕府の跡継ぎが何でこんな重労働をするのかと不満げな様子。
頼重は「諏訪大社の長寿丸」が今の時行の仮の姿のため、普段から労働しておかなければ敵方が来た時に怪しまれると話します。
弧次郎は来そうな敵方といえば貞宗だと言いますが、あれだけ大恥をかかされた昨日の今日で顔は出せないだろうと推測。
しかし貞宗は今日も満面の笑顔で頼重たちの前に現れました。
彼は帝からの綸旨(命令文書)を伝えに来たようです。
その文書には、北条に与した咎により、諏訪と郎党の領地のうち諏訪湖以北を没収し、小笠原領とすると書かれていました。
鎌倉幕府に代わって政権をとった後醍醐天皇は、北条に近い武士を徹底的に排し、自分に忠実な者だけで全国を支配しようとしました。
帝の綸旨に逆らえば「朝敵」となり、周囲の勢力が大義名分を得て一斉に諏訪を攻めてくるのです。
貞宗は十日以内に該当の土地に住む郎党には退去してもらうと命じ、頼重に主らしく粛々と説得するよう告げて去っていきました。
その後、諏訪の郎党たちは先祖の代から苦労して開墾した土地を、小笠原ごときに渡せないと言い、戦しかないと頼重を説得します。
そして諏訪神党三大将の祢津頼直、海野幸康、望月重信が貞宗の首を取ると立ち上がります。
しかしそんな彼らに、頼重は悪いようにはしないと静かに告げ、今日のところは帰るよう命じました。
そして時行と2人きりになった頼重は話を始めます。
時行は一党を「逃若党(ちょうじゃとう)」と名付けたらしく、頼重はその逃若党に加入を勧めたい男がいるのだと言います。
その男とは「風間玄蕃」と名乗る盗人。
諏訪でも盗みを働くため、頼重では警戒されるものの、時行なら仲間にできるかもしれないとのこと。
なぜ今盗人を仲間にするのかと尋ねる時行に、頼重は能力を買ってのことだと答えます。
玄蕃は幼いながらあらゆる小細工を使えるようです。
そこで頼重は時行に、彼を使って貞宗の館から帝の綸旨を盗んでほしいと頼みました。
綸旨の発行には酷く時間がかかっているらしく、紛失させれば相当な時間が稼げるという頼重。
邪の者も郎党として使いこなし、全てを備えた大将になりなされと頼重は告げました。
盛高はあのひねくれた犯罪者の交渉にいかせるなど大丈夫かと心配しますが、頼重は時行は支配者の子なので、必ず王の器が垣間見れると話しました。
そして時行は弧次郎たちと共に、諏訪から馬で一時間の桔梗ヶ原を訪れました。
雫は早速畑を耕していた村人に声をかけ、「風間玄蕃という人を探している」と伝えようとします。
しかしその名を口にした瞬間、そこにいた村人たちは凄まじいスピードで一斉に家に閉じこもってしまいました。
その様子を見て、玄蕃がとても嫌われていることを察する亜矢子。
すると時行の背後に突然狐の仮面をかぶった男が現れ、誰も俺には逆らえない、敵に回せば地獄を見るからだと不敵な笑みを浮かべました。
時行は驚いて木の上に逃げ出します。
狐の仮面の男は風間玄蕃だと名乗り、三里先から自分の名前が聞こえてきたため、やってきたのだと告げます。
用件を問われた時行は、諏訪大社の長寿丸と名乗りつつ、君を郎党に加えたいと話しますが、玄蕃は北条の坊々だろと返しました。
さらに小笠原に売ったらいくらになるかと笑みを浮かべる玄蕃。
それでも動じない時行を見て、玄蕃は未来を見通す力のある頼重の指示を信頼しているのだと感じました。
その信頼を挨拶代わりに壊してやると考えた玄蕃は、いつの間にか弧次郎たちの懐に入っていた財布を盗み出し、貞宗にいわない口止め料として500万円と、仕事一回につき500万円を要求しました。
そんな無茶苦茶な要求に動揺する時行たち。
玄蕃は俺の腕が欲しいなら、金のみが俺とお前を繋ぐ糸だと言いました。
玄蕃の盗みの技術は幼い頃、父から受け継いだものでした。
しかし父はその技術を身に着けたことにより、逆に信頼を失ってしまい、長年尽くした主君から見放され、盗みを疑われて追放されたのです。
そこで父は玄蕃に、信頼も忠義も貸したところで返ってこないので、技を売って今得られる金のみを信じるのだと教えました。
玄蕃は全てを失った時行には金もないことを知っていました。
恥を捨てて頼重に借りても、借りが増えるほど主従は逆転し信頼関係も失います。
そのため誇りも地位も信頼も、金がない時行には維持できないと玄蕃は考えていました。
困ったような顔でグラグラ揺れる時行を見て、現実を思い知れとほくそ笑む玄蕃。
しかし時行は「本当に国じゃなくていいのか?」と、聞き返しました。
そんな彼の言葉に、キョトンとする玄蕃。
時行は我が郎党となり、その異能で天下の奪回を助けてくれれば、君は旗揚げからの生粋の功臣だと言います。
甲斐や武蔵の一国くらい与えられて当然なのに、国を求めず金で済ませてくれるなんて君は何て無欲なんだと時行は言いながら、玄蕃に抱き着きました。
玄蕃は困惑しながらも、さすが武家随一のお坊ちゃま、資産感覚もお人好しも桁が違うと感心するのでした。
12話
玄蕃に協力してもらえることになり、ウキウキの時行。
そんな中、雫は玄蕃に現金払いで本当にいいのかと尋ねます。
時行が天下を取って一国を任されたら、毎年何万貫文(何億円)も懐に入るという雫。
当面の生活費も心配ない、時行郎党の分は諏訪大社が保証すると言います。
さらに弧次郎もこんな夢のある博打に乗らないのかとささやきますが、玄蕃は両耳から誘惑すんな!俺に決めさせろ!と彼らから距離を取りました。
そして玄蕃は時行に、貞宗の館から帝の綸旨を盗むのは命の危険が伴うため、無責任な雇用主に自分の命を賭ける気はないと話します。
そのため時行が一緒に来るならば受けると条件を出し、報酬は銭払いか国払いか時行の器を見てから決めるという玄蕃。
そんな彼の要求を、時行は当然だと引き受けました。
貞宗は守護になってから蔵を増築したのですが、その増築の理由が綸旨で、重要書類の厳重な保管が目的なのだとか。
敷地の外は堀と塀があり、庭の中も蔵の前も警備がたくさんいます。
出世した貞宗の屋敷は他の盗人にも狙われたようですが、しくじった盗人の首が庭に並べてありました。
それを見た時行は、思わずゴクンと唾を飲み込みます。
弧次郎と亜矢子は敷地の外の草むらに潜んで合図を待ち、いよいよ玄蕃と時行が2人で屋敷に突入することになりました。
貞宗自ら厳重に鍵をかけた蔵、堀や塀を超えるのは玄蕃には容易いらしく、三重の錠前も熟練の盗人なら誰でも開けるとのこと。
最大の問題は蔵の前の見張り2人で、玄蕃は生の人間以上の錠前はないと言います。
しかしそれを開けられるのが玄蕃の技のようです。
そして玄蕃はついに動き出しました。
まずは木の枝を飛び移り、軽々とジャンプして塀に飛び乗ります。
その塀の上から時行に向かって縄を投げる玄蕃。
そんな彼の動きを見て、時行はとてもワクワクした表情をしていました。
そして敷地に入った玄蕃と時行は身を隠しながら、蔵へと向かいます。
その間、玄蕃は時行に偉い武士の子のくせに、今盗みの片棒を担いでいることへの恥じらいはないのかと問いかけました。
すると時行は武士の恥なんて、鎌倉から逃げた時に大方捨てたと答えます。
諏訪のみんなに匿ってもらっているものの、それが原因で迷惑をかけっぱなしなので、綸旨を盗んで諏訪の皆が助かって恩が返せるなら恥とは思わないという時行。
そんな彼の言葉に、玄蕃はしょーもないと言い放ちます。
目に見えない貸し借りはいずれ必ず、とりっぱぐれるので、自分は目に見えるものしか信じないという玄蕃。
命か恐怖を見せつければ人は従うと言います。
例えば以前玄蕃に浮気調査の報酬を払わずにバックレた女がいたようです。
そこで彼は女の家に忍び込み、米にゴキブリと小便を入れたご飯を混ぜて炊いたり、女の着物に裸でくるまったりと、嫌がらせをしたのだとか。
そのうち誰も恐怖で逆らえなくなったと語る玄蕃ですが、時行はこうやって嫌われていったのかと悟ります。
玄蕃は人間は見えるものしか信じない、それが自分の技の根幹だと言いながら、なぜか堂々と見張りのいる蔵の正面に向かって一人歩いていきます。
それを見た時行は驚き、自分のことを売る気ではないかと慌てます。
すると玄蕃は見張り2人に対し、北側の塀の釘が数か所緩んでいるため、直ちに直せと命じました。
どうやら見張りたちの目には玄蕃が、貞宗の姿に見えている様子。
見張りたちは、先ほど貞宗に決して蔵から離れるなと言われているため戸惑いますが、玄蕃は敵の奇襲が今夜あればどうする、寝込みを刺されてあの世行きだと怒りを露わにします。
すると見張り2人は慌てて、塀の修正に向かいました。
どうやら玄蕃の被っている狐の面は秘伝の粘土で覆われているらしく、小道具込みで大概の人間の顔を真似られるのだとか。
時行は玄蕃が自分の正体を知っていたのは、諏訪大社の者にも化けていたからだと悟り、恐ろしい奴だと感じます。
すると玄蕃は、時行が先ほど彼が貞宗に寝返らないか疑ったことを見破ります。
何でも盗めて誰にでも化ける、そんな奴が配下にいたら誰でも疑うという玄蕃。
「疑わずに俺を使える自信はあるか?百万人の武士に裏切られた若君様」
そう言いながら、玄蕃は時行に化けて見せます。
そんな彼の姿を見て、困惑する時行。
そして玄蕃が蔵の鍵を開け、見事蔵の中に潜入することに成功しました。
一方屋敷の中では貞宗がいびきをかいて眠る中、蔵の中の物音に気付いた人物がいました。
彼は信濃守護補佐役の市河助房です。
助房は大きな耳を床に押し当て、蔵に子供2人がいることと、見張り役が北側の塀にいることを察知。
部下に貞宗を起こして、郎党や門番に連絡するよう指示を出します。
そして助房は刀を手に取り、「今日の闇夜に俺さえいなきゃ、ガキの首など晒さずに済んだろうに」と不敵な笑みを浮かべるのでした。
13話
綸旨がしまわれている蔵に忍び込んだ時行と玄蕃。
しかし玄蕃は蔵の前に人の気配を感じます。
綸旨は見つけたため、屋根板を外して上から脱出するという玄蕃。
玄蕃は死にたくなきゃ必死でついてきなと、時行に告げました。
その頃、蔵の外では助房が家来を集め、蔵を囲んで押し入ろうとしていました。
しかし包囲が整う前に、屋根から時行と玄蕃が飛び出します。
そして玄蕃は彼らに向けて煙幕を投げつけ、加えて上空で爆弾を爆発させて炎の光で目くらましをします。
家来たちが時行たちの姿が見えずに混乱する中、助房は時行たちの足音に耳を澄ませます。
時行たちが逆方向の塀を登っていることに気づいた助房は、その方向に弓矢を放ちました。
すると塀を登っていた時行の服に弓矢が刺さってしまいます。
しかしすぐに弓矢を抜き、塀を乗り越えて外に逃げ出す時行たち。
家来たちはすぐさま後を追いかけます。
それと同時に外で待機していた弧次郎と亜矢子が、玄蕃からの「火」の合図を受け、馬に乗って走り出しました。
彼らは見つかったら追っ手を引き付けるよう玄蕃に指示されていたらしく、家来たちは馬に乗って逃げる2人を追いかけていきます。
しかし助房は馬が走り始める音はしたものの、塀から馬まで走り寄る足音はしなかったため、あの馬はあらかじめ潜ませた囮の仲間だと気づきます。
さらに徒歩で去る足音もしないので、すぐ近くにいて、あの林でじっと息を殺していると言い当てる助房。
勘づかれてしまった時行と玄蕃は、林に身を潜めながらギクッとします。
そして助房は聞き耳を立てながら、じわじわ近づいてきました。
玄蕃は助房には視覚を欺く自分の幻術が通用しないと焦っていました。
このままでは見つかってしまうため、今からでも時行を売ることを考える玄蕃。
しかしここまで一緒に逃げた以上、自分も一味と見られると考えて断念します。
世間知らずのお坊ちゃまに現実を教えて人間不信にして遊んでやろうと思ったばかりに、下手を打ったと後悔する玄蕃。
そして玄蕃はついに時行を置いて忍び足で逃げ出しました。
しかし時行は、隠れ鬼ではこの距離で動き出すのが一番見つかるのだと考え慌てます。
すると次の瞬間、玄蕃の背後に助房が現れ、刀で襲い掛かってきました。
そこへ時行が玄蕃を助けに入り、背中を刀で斬られてしまいます。
しかし助房の刀は大太刀だったため、刃が木に当たって止まりました。
そして助房が木にひっかった刀を抜こうとしている間に、時行と玄蕃は逃げ出しました。
玄蕃は走りながら、見捨てようとした自分をなぜ助けたのかと問いかけます。
すると時行は「さっき君を疑ってしまった。君が死んだら詫びれない」と答えます。
時行は心も弱く器も小さいため、この先も玄蕃を疑ってしまうこともあるかもしれないと話します。
しかし自分からは絶対に玄蕃を裏切らないと誓えるという時行。
それは玄蕃と一緒に逃げるのが楽しいからだと語ります。
自分一人では逃げ切れない強い鬼からも、玄蕃の技の数々があれば逃げられると考えれば、ワクワクして止まらないのだとか。
そして時行は、例え玄蕃が絶体絶命でも例え玄蕃が裏切っても、逃げるときは必ず一緒だと言いました。
おびただしい人間から裏切られた経験を持ちながら、時行の方から味方を裏切った記録はありません。
寝返りや離反が当たり前のこの時代では、かなり一途な武将だったといえます。
一方貞宗は助房と共に馬に乗って時行たちを捜していました。
玄蕃は森を抜けたところに馬を隠してあるらしく、もうすぐだと言います。
しかし時行はかなり出血してふらついており、激しく動くと限界がきそうだと感じる玄蕃。
その時、時行の背後から凄まじい勢いで弓矢が飛んできました。
時行は辛うじて避けましたが、弓矢は太い木を割るほどの威力で、玄蕃は雷か!?と驚きます。
しかしそれを見た時行は、貞宗の弓だと気づきました。
玄蕃は貞宗たちの乗る馬の足音は100メートル以上先から聞こえるため、この闇夜でドンピシャで狙えるはずがないと信じられない様子。
どうやら貞宗は助房と合体し彼の耳を通じて、時行たちの居場所を把握しているようです。
玄蕃は馬まで行くには距離があり、時行と一緒ではあの弓からは逃げ切れないと感じます。
(目に見えない借りだったら無視できるのに、見える傷など作られたら返さなきゃならないだろうが!)
そう考えた玄蕃は、一人動き出すのでした。
14話
貞宗と助房は合体し、まずは手負いの時行から仕留めるため弓で狙いを定めようとします。
しかし助房は玄蕃の足音が近づいてきていることのに気づきました。
そして次の瞬間、上空で火が燃え上がり、驚く貞宗と助房。
気付けば玄蕃は木の上に立っており、まとめて相手してやると2人に告げます。
玄蕃の狐面を見た助房は、盗人の風間玄蕃だと気づきます。
貞宗は風間といえば信濃に住む諏訪氏の支流、さては頼重の命で帝の綸旨を盗みにきたなと、玄蕃に弓で狙いを定めます。
すると玄蕃は何のことだと惚けながら、木の幹を思いっきり蹴りました。
その瞬間、木に巣を作っていた鳥が一斉に飛び立ち、助房は音の方向が分からなくなり混乱します。
殺し合いならいざ知らず、化かし合いでお堅い武士に負けるかという玄蕃。
「忍」という記述が登場する最古の文献は、この時代を記した「太平記」のこと。
玄蕃は忍びの如く、貞宗と助房の周りを素早く動き、彼らを翻弄します。
それでも貞宗は、この距離では外さないと自信をのぞかせながら弓を引こうとします。
しかし玄蕃が助房に顔を変えて、貞宗の目の前に姿を現しました。
貞宗はギョッとして、思わず後ろを振り返り、助房を確認。
その隙に玄蕃は先端に刃の付いたロープを投げ、貞宗の弓の弦を切断しました。
すると助房が馬から飛び降り、刀で玄蕃に襲い掛かります。
しかし玄蕃は砂を投げつけて助房の目を潰しました。
卑怯だという貞宗に、玄蕃は俺の共犯はこういういたずらに目を輝かせていたと返します。
だから共犯に、紙なぞ盗むものじゃない、燃やして遊ぶものだと教えてやったと言いながら、火玉と煙玉を握りつぶし炎をまとう玄蕃。
その時、貞宗は自分の屋敷の方から火の手が上がっていることに気づき驚きます。
玄蕃は蔵に忍び込んだ後、火を放っていたのです。
武士の戦から「正々堂々」が失われていくこの時代で、隠密に潜入し破壊工作を行われる者が重宝され出しました。
それが「忍者」です。
そして貞宗が炎に気をとられた一瞬の隙に、周囲が火に囲まれ玄蕃を見失います。
貞宗は手負いの時行を捕らえて首謀者を吐かせようとしますが、助房は馬の蹄の音に気づきました。
どうやら囮として逃げていた弧次郎と亜矢子が、時行の元へ駆けつけたようです。
あの距離では時行にも追いつけず、弓も壊されて使えません。
貞宗たちは玄蕃一人の術中に全員がハマってしまったことに気づき、怒りに肩を震わせました。
一方時行は弧次郎と亜矢子に保護され、馬に乗って走り出します。
そこへ玄蕃もやってきて、馬に飛び乗りました。
亜矢子は傷を負っている時行を心配し、玄蕃に若様をもうちょっと大事に扱ってよと文句を言います。
しかし時行は、玄蕃がいたからあの二人相手に逃げ切れたのだと庇います。
そして時行は玄蕃に、楽しかった、また一緒に隠れ鬼をやりたいと伝えました。
そんな彼の言葉を聞いた玄蕃は父から、仮にお前が損得抜きでも仕えたい主に出会った時は、それでも金をとれ、来世まで仕えてでもむしり取れ、と言われたことを思い出します。
そして玄蕃は時行に、国一つで契約してやると告げました。
もしもお前が払えなければ、お前の子や孫、お前の縁者全てに付きまとって追い詰めてやるという玄蕃。
時行はつまり私の子とも鬼ごっこで遊んでくれると言うことだなと解釈し、玄蕃は天下獲らなきゃ許さねーって言ってんだ!と怒るのでした。
後日、助房は諏訪にやってきて、人々に立ち退きを命じようとします。
しかし諏訪の人々は綸旨の現物を確認できなきゃ立ち退かない、綸旨も持たないやつの命令に従えるかと拒否しました。
それでも貞宗は、綸旨など1ヵ月もあれば再発行できると考えている様子。
そんな彼のもとに家来が慌てた様子でやってきて、諏訪の領地が奪っちゃダメになったと報告しました。
その頃、京では後醍醐天皇の元に、北条打倒の一番の功労者だと名乗り出る者が大勢詰めかけていました。
しかし彼らは大半が恩賞目当てに嘘の手柄を主張する者で、一人一人の真偽を調べていたら何年あっても足りず、肝心の政務がまるで進みません。
膨大な申請に辟易した後醍醐天皇は「めんどい」と言って、武士全ての領地を自ら決めることを断念。
北条氏以外の武士の領地は今のままとする綸旨を出し、諏訪氏の領地もお咎めなしで保たれたのです。
悔しがって発狂する貞宗を、助房はまた好機は来ると励ましました。
一方諏訪が安泰となり人々が祝杯を上げる中、頼重は時行の傷を手当てしながら彼に感謝の言葉を述べていました。
そんな中、弧次郎は玄蕃の加入は心強いと話します。
あの技があれば尊氏の寝所に忍び込んで、サクッと暗殺することだって可能なんじゃないかという弧次郎ですが、頼重は「尊氏は絶対に暗殺では殺せない」と断言します。
そして頼重は足利尊氏という男について、語り始めるのでした。
15話
頼重は時行に、現在京では後醍醐天皇のなかで権力争いの真っ最中だと語り始めます。
一人は武士たちの代表となった足利尊氏。
そしてもう一人は征夷大将軍・護良親王。
後醍醐天皇の皇子として父に代わって鎌倉幕府打倒の指揮をとった、政権奪取の大功労者の一人です。
父譲りの利発聡明さと求心力を備え、武芸兵法まで極めたという異色の皇子で、後醍醐天皇が後継者に考えたこともありました。
護良親王は尊氏がいつか必ず父の帝に背くと確信し、彼を暗殺しようと試みます。
しかし尊氏には隙がなく、ことごとく失敗してしまいました。
部下を尊氏に斬り殺された護良親王は、我が直感は正しかった、貴様はこの世にいてはならない怪物だと考え、仲間と共に自ら彼に斬りかかります。
しかし尊氏は片方の手で護良親王の刀を軽く防ぎながら、もう片方の手で護良親王の仲間を斬り殺しました。
そして尊氏は護良親王の刀のみねを素手でつまみながら跪き、「どうかお信じ下さいませ。この尊氏の帝への篤き忠義を」と告げます。
尊氏の圧倒的な実力を前に、個の武では到底及ばないと思い知らされる護良親王。
それでも仲間と力を合わせれば、いずれ必ず尊氏を倒せると考えます。
そこへ護良親王の仲間たちが駆け付けました。
護良親王はホッとし、早く加勢せい!と指示しますが、仲間たちは彼を無視して、尊氏の方にいってしまいました。
昨日までの仲間が、なぜそちらへ?と困惑する護良親王。
足利尊氏という英雄の最大の「兵器」は、異常に人を引き付けるカリスマ性でした。
そして尊氏と争った護良親王は、たった二か月で征夷大将軍を解任されてしまいます。
後醍醐天皇は功も才もあり、苦楽を共にした実の皇子より出会ったばかりの余所者の武士に惹かれてしまったのです。
護良親王は尊氏の体内で、人ではない何かがうごめいているのを感じ取っていました。
暗殺不可能な武力に加えて、異次元の魅力があるのが、足利尊氏だという頼重。
帝の御子相手に権力争いで圧勝する姿は、時行たちの知る足利高氏とは別物だと言います。
そして頼重は、頂点たる者に立ち向かう覚悟はあるかと時行に改めて問いかけました。
その時、亜矢子が部屋に駆け込んできて、玄蕃にいい加減にするよう命じてよ!と時行に助けを求めます。
どうやら玄蕃は泥酔して巫女の尻に触りまくった挙句、部屋中飛び回って、跳びながらおしっこをまき散らすと宣言したらしく、諏訪の人々が怒って刀を抜き始めているようです。
時行は頂点の話が、いきなり底辺の話だと呆れながら、玄蕃の元に向かおうとします。
去り際、時行は頼重にあなたは仲間をくれて、戦い方をくれて自信をくれたと話し始めます。
どれもまだとても小さなものだけど、あなたがくれた自慢の宝だという時行。
そして時行は、尊氏との差がどれだけあろうが諦めない、宝を集めて何度でも突きつけてやるだけだと決意を口にしました。
そんな彼の姿を頼重は微笑みながら見つめるのでした。
尊氏と時行。
無敵の獅子とその眼中にない兎。
獅子はまだ知らない。
小さな兎を恐れる日が来ることを。
16話
幕府滅亡から半年が経ち、北条時行は諏訪潜伏生活で初めての新年を迎えました。
全国の混乱は一応の小康状態となっていましたが、小競り合いは続いているようです。
そんな中、頼重は(あ・・・未来が見えない期来ちゃった)と動揺していました。
その頃、信濃守護館では新たな土地を手に入れた貞宗が、悪党として鬼の如く恐れられたという豪傑を迎え入れていました。
その男は「諏訪の領地をじわじわ奪え」と貞宗に命じられたようです。
奪うことは我が生きがいだと、不敵な笑みを浮かべながら立ち去る男。
助房はあの気配は武士ではなく賊のものだと心配しているようですが、貞宗は我が家中には剛の者が足りないのだと話します。
彼の頭の中には時行や玄蕃の姿が浮かんでいました。
武士の常識に囚われていては、この乱世では勝ち抜けないという貞宗。
一方貞宗の不穏な動きに諏訪の者たちも気づきました。
北の国境に敵兵が様子を窺っているようで、盛高は誰かを北へ偵察に行かせようとします。
しかし腕利きの偵察は西の国境の敵軍の動きも危険ということで出払ってしまっているようです。
貞宗は新たに朝廷から北条の旧領を与えられ、北と西から諏訪の挟み撃ちが可能となったのです。
そんな中、頼重は稀に突然一切未来が見えない時期が来ることは、みんなには秘密にしていました。
こんな時に問題が起きないでほしいと動揺する頼重。
すると時行が、我ら逃若党で偵察に行ってきましょうか?と提案しました。
それを聞いて焦る頼重ですが、その場にいた者たちは、それでこそ武家の棟梁となるお方だと時行を拍手し称えます。
頼重は何かあったら北条の血筋が絶えてしまうので危険だと止めようとしますが、子供だけの方が警戒されず逃げ足も速いので大丈夫だという時行。
盛高も妙案だと賛成し、その場にいる誰もが時行を偵察に行かせることを受け入れています。
しかし頼重だけは、あらゆる理由をつけて行かせまいとしました。
そんな彼の様子に時行は違和感を覚えながらも、埒が明かないので頼重を無視して出発することにしました。
まずは偵察の準備をすることになり、弧次郎は身軽な方がいいので、二日分の飯と少しの路銀で十分だと話します。
しかし頼重が時行たちのために、大量の食糧とお金を持ってきました。
時行が餓死したら血筋が絶えると頼重ですが、時行たちは彼を無視して立ち去ります。
次に防寒対策で雫特製の綿入り小袖を羽織る時行たち。
軽装の方が疑われず逃げやすいということで、武器も打刀を一本だけ持っていきます。
しかし頼重は防寒対策のための厚手の服や布団、さらに武器類などを取り揃えて、再び時行たちの前に現れました。
今日ほんと変ですよ!?と困惑する時行に、凍死したり現地に敵兵が百万騎いたら血筋が途絶えるという頼重。
そんな彼を無視して時行たちは馬に乗って走り出します。
時行は頼重に振り回されるのは毎度のことで、彼が何を考えているのか相変わらず分かりませんでしたが、心配そうに送り出してもらうのは少し嬉しいと感じました。
その後、時行一行は諏訪領の現在の北端に位置する中山庄にやってきました。
ここで雫により、今後の手順の確認が行われます。
諏訪領とはいえ端の端で情報が少ないので、まずは諏訪大社の使いとして聞き込み。
次に明日村の周囲を見て回り、敵は来そうか、もし来るなら時期と規模はどうなるのか、守るなら兵は何人必要か、情報をまとめて諏訪大社に帰って報告する流れです。
その時、弧次郎と亜矢子がいち早く背後に気配を察知。
2人は何者かの攻撃を刀で防ぎました。
全く気付いてなかった時行と雫は驚きを隠せない様子。
何人もの人々が草むらに隠れており、どうやらすでに時行たちは包囲されているようです。
そして刀を二本持った青年が姿を現しました。
弧次郎は「何だよこの村、すでに敵方に落ちてんじゃねーか」とつぶやくのでした。
17話
二刀使いの少年が襲い掛かってきました。
弧次郎と亜矢子は少年の強烈な攻撃を何とか受け止め躱します。
その少年は十代半ばと思われましたが、この若さで凄まじい剣捌きを披露していました。
玄蕃は戦いは専門外のため、あの少年は二人に任せて逃げるぞと時行を促します。
周囲には松明を持って身を隠している敵もいるので、いつ囲まれるか分からないという玄蕃。
しかし時行は戦いを見守りながら、それを拒否しました。
半年前よりずっと、二人とも強くなっているという時行。
彼の言葉通り、弧次郎と亜矢子は二刀使いの少年と対等に戦っている様子。
時行は2人が速さも威力も自分と稽古しているときとは全く違うと驚いていました。
実は時行は弧次郎と剣の稽古しているとき、五回に一回は一本を取っていたのです。
弧次郎はそんな時行を誉め、鍛錬されたら追い越される、俺もうかうかしてられないと話していました。
さらに時行は稽古の最中、鍔迫り合いで亜矢子のことも圧倒していました。
大人になる頃には君が私に守られる側になるかもなという時行に、亜矢子は思わずきゅんとして、強い若様早く見たいなと言って彼の頭をなでなでしました。
時行はそれらは甘やかされていたのだと気づき、赤面します。
弧次郎と亜矢子は頼重から、時行の逃げ上手は絶対ではなく、根が平和な性格ゆえ油断もするし躱せない攻撃もまだまだ多いと聞かされていました。
経験豊富な歴戦の武者や異能を有する変則の武者、人の域を超えようとしている武者、そういう怪物たちの前では時行とて逃げ切れる保証はないのです。
そのため頼重は二人に、どんな敵からも主君の命を護れるように油断なく成長を続ける侍であれと教えました。
時行は弧次郎と亜矢子の戦いを見つめながら、何と勇猛で忠義に篤い家臣たちだと感心します。
尊敬と同時に羨望も抱き、いつかあんな風に自分も堂々と刃を交わしたいと思いました。
その時、二刀使いの少年が時行の背後で様子を窺っている雫の姿に気づきます。
そして少年は弧次郎たちとの戦いをやめて距離をとり、もしや雫か?と彼女に声を掛けました。
少年が「忘れたか?以前飯をもらった・・・」というと、雫は思い出したように「吹雪くん?」と返します。
すると彼は諏訪大社の御遣いだと気づいたようで、ご無礼をお許しくださいと言って跪きました。
どうやら弧次郎と亜矢子から獣の気配がしたため、変装した敵の斥候かと思ったようです。
そして少年は吹雪と名乗り、各地を放浪して仕える主を探しているのだと言いました。
吹雪はここの村人ではなく、三日ほど前に飯を乞いに立ち寄ったのだとか。
すると村が小笠原貞宗の旗印の数人に襲撃されていたため、助太刀したようです。
同じ規模の小隊が三度来ましたが、何とか殲滅。
しかし備蓄も尽き、外部と連絡する馬もないので危ないところだったという吹雪。
そして周囲で松明を持って草むらに隠れていた村人たちは、実は全員子供でした。
吹雪が到着した時には、大人は全員殺されていたようです。
弧次郎は君一人で敵兵を三度も全滅させたのかと驚きますが、吹雪は彼らも立派な戦力だと話します。
先ほどのように松明で敵の気を散らせたり、敵の死体と刀が余っていたので、それを使って敵を誘う落とし穴を作らせたり、仕掛け弓を作らせたり囮のハリボテを動かしたり、幼子でも教えればできることはたくさんあるという吹雪。
知識を蓄え腕を磨き、それを活かせる強い主君を探しているようですが、自分には人の才を見抜き育てる方が合うのかもしれないと吹雪は言います。
この世のどこかに教えを欲する天下人でもいれば話が早いという吹雪の言葉に、時行は嬉しそうに目を輝かせます。
親を亡くしたばかりの子たちが闘志の宿った目をしていました。
吹雪はわずか三日で孤児たちを奮起させ、村を守れる戦力へと育てたのです。
時行は天下奪還の援けとして彼が欲しいと思いました。
それに加えて、剣術を教わって弧次郎と亜矢子に尊敬の目で見られたいと考える時行。
その頃、「征蟻党」という名の敵兵の小隊が動き出そうとしていました。
18話
吹雪がガツガツとご飯を食べる中、時行たちは彼から話を聞きます。
吹雪によると、この辺境の小さな村は諏訪にとって最大の急所とのこと。
この村は人口は少ないものの、攻めにくい地形なので守備兵が百人もいれば難攻不落の要塞に化けるのだとか。
そのため小笠原貞宗がここを占領して軍を置けば、国境から攻め込む際にこの上なく有利になります。
なぜなら諏訪領の豊かな大集落である浅田庄を挟み撃ちにできるためです。
兵法でいう「掎角の勢」。
これが成れば諏訪側は大量の領地を失うことになります。
恐らく今回の貞宗の侵攻を指揮する者は、そういう兵法に通じているとのこと。
吹雪としてはこの村を守り、戦略的価値まで諏訪に伝えれば褒美はデカいと踏んだようです。
その話をする間、ひたすら大量の米を食べる吹雪に、弧次郎はよく食うな!と驚きます。
この村の子供によると吹雪は三日で村の蓄えを食べつくしたのだとか。
そのため吹雪はもう村を守るのは限界だと思ったと笑い、時行は戦略眼はすごいのに食糧計算はできないのかと少しガッカリします。
そんな中、雫は自分が吹雪と去年初めて会ったときもそうだったと思い返します。
それは雫が神事の手伝いで東信濃へ出張した時、もらった捧げ物を勝手に忍び込んだ吹雪が食べつくしていたのを彼女が発見したのだとか。
雫は熊に盗られたことにして誤魔化したようですが、頼重はお腹が減ったと泣き出して大変だったようです。
吹雪は謝りながら、空腹と幼子の頼みには逆らえない性なのだと話します。
その話を聞いた時行は、吹雪のことを冷静沈着な策士に見えて意外と不器用な男だと感じました。
そもそも策士なら勝てる方を選び、幼子だけの村をわざわざ守ろうとは思わないと感じる時行。
すると雫が時行に頼重が妙に心配していたのが気になると話し、安全な未来が見えてないのかもしれないと推測します。
この村がいくら重要でも時行の命が大事なので、子供たちを連れて安全な諏訪領まで逃げることを勧める雫。
しかし時行は自らの過去を振り返りながら、できれば村も守りたいと言います。
故郷と親を一度に失うのは少々哀れなので、心に整理がつく間ぐらいは居させてやりたいと語る時行。
それを聞いた雫は「心得ました」と返します。
そして雫は亜矢子と共にふもとの村で助太刀の兵を借りてくると言い、玄蕃に至急諏訪大社に戻って援軍の要請をするよう指示。
さらに雫が弧次郎と亜矢子に指示を送る中、時行はこっそりと吹雪に少し外に出てほしいと告げました。
一方敵の本軍は確実に時行たちのいる村に迫ってきていました。
彼らは今の朝廷が辺境まで監視する力がないため、諏訪領の端を削り取れと貞宗に命じられているようです。
今までは小出しで部隊を送っていましたが、今度は全軍で動いて時行たちのいる中山庄を落とすつもりでいました。
その頃、時行は吹雪に頼み竹刀で剣術の稽古をしていました。
吹雪の華麗な剣捌きを、華麗な身のこなしで避ける時行。
吹雪は驚異的な逃げ上手だと感心しつつ、そちらから攻撃を!と要求します。
時行は鋭い目つきで竹刀を振るいますが、スピードが全くなくヘロヘロで、吹雪はすぐさま攻撃は糞ザコだと察します。
時行は吹雪が教えるのが抜群に上手く、剣術にも詳しそうということで、敵を殺せる剣術を教えてほしい、護られるばかりでいたくないのだと頭を下げて頼みました。
すると吹雪は時行が郎党たちに親しみと忠義を寄せられていると感じたらしく、よほど高貴な方なのかと尋ねます。
時行は慌てて否定しつつ、親は諏訪の武士だったが火事で死に、親族もないので諏訪大社に拾ってもらったのだと説明。
それを聞いた吹雪は、先ほどの幼子たちへの気遣いも同じ境遇ゆえに身についた優しさなのかと考え、光る物は逃げ以外何もないものの、乱世に似合わぬ温かさは大きな武器だと思いました。
すると吹雪は、時行に合った必殺の秘剣があると言います。
彼が言うには、この世で最も優しく慈悲深く、この世で最も残酷な剣なのだとか。
その名は「鬼心仏刀」。
吹雪は恐らく明日にでも敵の本軍が攻めてくるため、時行に敵の大将をとるよう指示しました。
その夜、敵の本軍は中山庄を両面から包囲し、山の中から攻め込もうと企みます。
この時代を騒がせた悪党とは、土地を失い野盗と化した武士たちや税も納めず独立天国を築く武士たちで、いわば賊の奔放さと武士の戦闘力を兼ね備えた集団でした。
そして大将の合図で軍が一斉に山を駆け下りていきます。
しかしその瞬間、山頂から加勢に来た伏兵が弓を発射し、敵を次々仕留めます。
登って行ってぶち殺してやると怒る男を、大将はやめろと止めます。
軍を反転して登り直すと、その間に射られ放題になるのです。
無勢で多勢を討つための戦法なので、自分たちの兵力が少ないと白状したのと同じことだという大将。
そのため敵の本軍はそのまま山を駆け下り、村に攻め入ってきました。
吹雪はその様子を見つめながら「さぁて、戦だ」と微笑むのでした。
19話
敵の本軍「征蟻党」が山を駆け下りてきて、小さな村に迫ってきました。
しかしその時、敵兵たちは次々にツルツルと滑ってこけていきます。
遠目に見れば只の平地でしたが、気付けば辺り一面が凍っていました。
すると隠れていた弓兵が現れ、敵兵を次々仕留めていきます。
助太刀にやってきた諏訪神党の浅田庄領主である浅田忠広が弓兵を指揮している様子。
そして吹雪はあらかじめ水路をせき止め、村の外周を水浸しにしておいたようです。
諏訪湖も凍る極寒の冬のため、一晩で氷の罠が完成したのでした。
敵兵は夜で氷が見づらい状態なのと、飛んでくる矢も気になって思うように進めません。
しかも背後からは山頂にいた弓兵も降りてきて、挟まれて狙い撃ちに。
すると敵の大将が仲間たちを蹴り飛ばし、倒れた兵たちで無理やり道を作りました。
敵兵は仲間を踏みつけながら前に進み、村へ入ろうとしますが、今度は落とし穴に落ちてしまいました。
その穴は子供たちが掘ったようで、雫が集めた諏訪神党の兵も少数ながら浅田の指揮により、次々に敵兵を仕留めていました。
両面からの敵襲も作戦通りに食い止めており、並の兵だけなら、このまま殲滅も不可能ではありません。
しかし征蟻党の幹部らが現れ、ついに塀を破壊して村に侵入してきました。
大将は彼らに後ろの味方は助けるなと命令します。
夜の弓の命中精度では全滅せず、むしろ敵の全軍を引き付けておけると考えたようです。
そして大将は屋根の上で全体を指揮する弓兵たちを殺しに行くと言います。
統率を失えば守備全体が総崩れになるという大将。
そうはさせるかと助太刀の兵たちが果敢に向かっていきますが、大将や征蟻党幹部ら4人にあっという間に殺されてしまいました。
その様子を観察していた吹雪は、少しも慌てず氷と穴の罠を抜け守備兵を一蹴する、あの4人が頭抜けて強いと考えます。
浅田があの4人に人を割いて止めるべきだと提案しますが、吹雪は諏訪神党はすでに手一杯で人を割けば防衛線が崩壊すると、その提案を却下します。
ではどうすればいいのかと尋ねる浅田。
すると吹雪は「ここは我々童が」と答えました。
次の瞬間、弧次郎と亜矢子が背後から、幹部の一人である白骨を斬り殺しました。
それに気づき驚く幹部の死蝋と腐乱に、2人はすかさず砂の入った玉を投げつけて視界を塞ぎます。
弧次郎と亜矢子が狙っていたのは大将の首でした。
亜矢子が大将の刀を弾いて、弧次郎がトドメを刺すつもりのようです。
そして亜矢子は真っすぐ正面から、大将に向かっていきます。
しかしその様子を見ていた吹雪は、その攻め方はマズい!と慌てます。
亜矢子は大将に刀を振り下ろしますが、彼は彼女の攻撃を刀で受けずに鎧で受けました。
大将の刀は防御に使わず、攻撃後で隙だらけの亜矢子に真っすぐ向かっていきます。
すると弧次郎が間一髪大将の刀を弾いて受け止め、大将の喉元を狙っていきました。
しかし大将は今度は肩をクルッと回転して、またも鎧で弧次郎の刀を防ぎます。
そしてすかさず攻撃を仕掛ける大将ですが、弧次郎はギリギリ躱しました。
大将は弧次郎たちに、全身を固めた鎧武者と戦うのは初めてかな?と問いかけ、薄っすら笑みを浮かべます。
鎧武者の剣術は現代の常識とは全く異なります。
「面」は兜で、「胴」は鎧で、「小手」は籠手で防げるからです。
警戒すべきは鎧の間のわずかな隙間だけであり、それ以外は避けない前提で刀を使えます。
鎧武者同士が刀で戦えば、六、七割は決着がつかないと言われていました。
その後も弧次郎と亜矢子の攻撃は全て鎧で防がれてしまい、大将は「もういいかな僕たち?安心しなさい。おじさんは子供は殺さない」と告げます。
しかし歯と舌を優しく抜いて、右足の腱を優しく切って奴隷にするだけで、それ以外は何もしないと付け加える大将。
そんな彼の言葉に、弧次郎と亜矢子は救いようのない外道だと憤りを覚えます。
すると2人は後ろを向いて走り出しました。
大将は彼らの後を追ってきます。
実は吹雪は事前に敵の大将の太刀筋が確認できたら、逃げるよう弧次郎と亜矢子に指示していました。
そして民家が立ち並ぶ場所に大将を誘導した弧次郎たちは目配せした後、とある家の外壁をぐるんと裏返し、走ってきた大将を、そのまま家の中に押し込み閉じ込めました。
その家には時行が待っていました。
一方吹雪も2人の幹部の前に現れ、どちらを殺そうかな、今日は実に楽しい戦だと言って微笑むのでした。
20話
瘴奸を時行の待つ小屋へと誘導した弧次郎と亜矢子は、外から小屋の鍵を閉めて、絶対死ぬなよ!と時行に声をかけます。
すると小屋の中から時行が「ああ、ありがとう」と答えました。
そして弧次郎と亜矢子は時行を心配しつつも、その場を立ち去ります。
亜矢子は3人で戦った方がいいんじゃないかと言いますが、弧次郎は今の戦況では敵一人に3人を割く余裕がないと話します。
それに吹雪の立てた作戦では、時行一人の方が大将を討ちやすいようです。
弧次郎は吹雪について、いう戦略なす戦略全てにおいて説得力があって今の戦況もほぼ彼の読み通りだと語ります。
それに加えて教えるのも上手くて剣の腕も抜群ということで、弧次郎は才能の塊みたいなやつだと吹雪のことを絶賛しました。
一方時行は瘴奸と対峙していました。
瘴奸はキョロキョロと辺りを見回した後、笑いながら、参った!見事に閉じ込められた!と言います。
村の外の罠といい楠木殿も真っ青の防衛戦術だという瘴奸。
すると瘴奸は、時行のことを「二貫文」とお金に例えて呼びながら、君一人で戦う気かい?と問いかけました。
二貫文?と眉をひそめる時行。
瘴奸は時行のことをさっきの2人より品質がいいと言い、一人で二貫文(十万円)の値がつくと話します。
嵌められて閉じ込められたにもかかわらず、全く気にせず時行を値踏みする瘴奸。
時行はこの村の子供の親を全員殺した彼に、なぜそんな惨いことをしたのかと問いかけます。
すると大将は親を殺せばその一瞬が心地良く、親を殺して子を売ればその先まで心地いいと話し始めます。
ああ、あの子たちはこの先ずっと生き地獄だ
親と過ごした平和と自由は永遠に戻らない
絶望の人生可哀想
そんな思いを巡らせながら子を売った金で酒を飲むと、心がじんわり満たされて気持ちよく酔えると、よだれを垂らしながら語る瘴奸。
それを聞いた時行は、心置きなく命を奪える根っからの外道でよかったと言います。
そして刀を構えて、勝負だと告げる時行。
瘴奸も、君の勇気に敬意を表し商品ではなく武士と見てお相手しようと言って、刀を手に取りました。
君を売った金で飲む酒はさぞや格別だろうと、不敵な笑みを浮かべる瘴奸。
その頃、吹雪は幹部2人を相手に闘っていました。
しかしやはり2対1は分が悪く、防戦一方の吹雪。
そこへ弧次郎と亜矢子も駆け付け、背後から幹部の死蝋を刺して殺そうとしますが、避けられてしまいます。
死蝋に頭はどこだと問われた弧次郎は、うちらの兵に囲まれて情けない顔で泣いてたぜ、俺らを倒せれば会いに行けるが無理だろうなと煽ります。
激怒した死蝋は、弧次郎たちに容赦なく攻撃を仕掛けていきました。
もう1人の幹部である腐乱は、その戦いを眺めながら無謀だと笑い、死蝋の兄貴はうちで随一強いのだと言います。
すると吹雪がどこかへ向かって歩き出します。
そんな彼にどこへ行く、今更逃げるのか?と問いかける腐乱。
吹雪はさっきの手合わせて判ったことがあり、仲間には見せたくないようだから離れてあげようかと思ったのだと話します。
あなたでしょ?この賊で一番強いの
そんな吹雪の言葉を聞き、腐乱の目つきが変わりました。
一方時行は瘴奸と戦っていました。
瘴奸はブンブンと刀を振り回して迫り、時行は素早く逃げます。
すると瘴奸は、君の作戦を当てようか?と言いつつ、狭い室内を逃げ回り自分の刀が引っかかるのを狙っているのだと、時行の作戦を推測します。
しかしそれは甘いという瘴奸。
民家に押し入る賊にとって室内戦はお家芸で、長い太刀を捨てて短い打刀で戦えばヘマはしないと言います。
そうなればこの密室で、この重装甲で恐れる脅威は何もないと余裕の笑みを浮かべる瘴奸。
おまけにこの狭さでは時行も逃げ場は少ないため、自分で自分を追い詰めたんだと瘴奸は言います。
時は遡り、数時間前のこと。
吹雪は時行に勝てないと思ったら、火を倒して天井から逃げてと指示しました。
上手くいけば焼き殺せるかもしれませんが、あくまでこれは次善の策だという吹雪。
最善は時行が独力で敵の大将を討ち取ることです。
しかし時行は何かを斬ろうと意識するほど、力んで刀が触れない自分が、本当に人を斬れるのだろうかと不安を抱えている様子。
そんな彼に、吹雪はあなたの武器は「優しさ」だと話します。
戦うより逃げるが得意、押すより引くが得意、攻めるより受けるが得意、それは全て時行の持つ優しさゆえだという吹雪。
その優しさこそ人を斬るのに最適なのだと言いました。
そんな中、時行は吹雪から教わったように、右手で刀を構えながら左手で拝むようなポーズを見せます。
(憎しみで力を込めることなく、菩薩の如く救う手心で)
そしてついに時行は瘴奸と刀を交えるのでした。
21話
征蟻党が村を襲う前のこと。
吹雪は時行に真剣の本質は押して叩き斬るものではなく、包丁やのこぎりと同じで引いて斬るとき、最も切れ味を発揮するため、退きながら斬るのだと教えました。
つまり逃げ上手な時行には最適な方法なのです。
時行はその斬り方では、敵の命は断てないと指摘しますが、吹雪はそれこそが逃げ上手の剣だからいいのだと話しました。
そして瘴奸と戦う時行は吹雪の教え通り、祈るようなポーズで左手をかざして照準を合わせ、敵の太刀筋と、敵と刀の間を通る瞬間を待ちます。
その瞬間が来た時、時行は上半身を左回転し、刀を重さに任せて降ろしつつ、右方向へ引いて逃げました。
すると瘴奸の左腕の内小手に、斬り傷を負わせることに成功します。
内小手は敵から狙われづらく動きに邪魔で装甲がないので、鎧武者の弱点なのです。
しかし瘴奸は大した弱点ではないと余裕の笑みを浮かべます。
手首の出血では意識を失うまでに何分もかかるのです。
まさかそれまでに俺に殺られずに済むつもりか?と問いかける瘴奸。
この狭い室内でお前をじわじわと追い詰め、切り刻んでからゆっくり止血すればいいという瘴奸の言葉に、時行は震えます。
しかし時行のその震えは「逃げ」の愉悦によるもので、彼は逃げながらの戦いをとても楽しんでいました。
そんな彼の姿に瘴奸は思わずゾッとしました。
一方弧次郎と亜矢子は幹部の死蝋と戦っていました。
しかし死蝋は薙刀使いで、なかなか間合いに入ることができず苦戦する弧次郎たち。
死蝋はお前らはここで死ぬと宣言し、十年後には一端の使い手になっていたろうし、そうなれば色んな快楽を知れたのに残念だったなと言います。
彼は子供の頃に瘴奸に拾われたらしく、力と体で弱者を蹴散らす大人の快楽や奪う快楽、犯す快楽を教えてもらったのだとか。
お前らの頭の聖人面した諏訪頼重にはできないことだという死蝋。
弧次郎は今の自分たちの主君は頼重ではないと否定しますが、死蝋は誰にせよ、ろくな快楽も教えてやれず、こんなチンケな村のために無駄死にさせるとは、無能な主君だと馬鹿にします。
すると雫が木の上から吹き矢で死蝋を攻撃しつつ、弱者を犠牲に大きく肥ったあなたたちより、弱者を守れと命じた兄様の方が武士の器はずっと大きいと反論しました。
死蝋が彼女に気を取られた隙に、亜矢子が背後から素早く攻撃しようとします。
しかし死蝋はすかさず薙刀で亜矢子に反撃。
亜矢子はその薙刀を刀で受け止めましたが、おもむろに刀を投げ捨て手袋を装着した手で薙刀をガシッと掴みました。
そしてそのまま倒れ込んだ亜矢子は、足も使って長い薙刀を抑え込みます。
そこへ弧次郎が走って向かいながら、十年早いとか悠長なこと言ってられないとつぶやきます。
頼重は時行に「十歳の時にあなた様は天を揺るがす英雄となられまする」と予言しましたが、その時まで残り一年半。
弧次郎は十歳の自分たちでも大人を倒すことができなければ、時行の大戦に間に合わないと考えていました。
死蝋は慌てて亜矢子を何度も蹴って薙刀を引き離そうとしますが、彼女は必死に耐えて薙刀を離そうとしません。
そこへ到着した弧次郎が、死蝋の肩に刀を振り下ろしました。
死蝋は悲鳴を上げ肩から血を吹き出しながら、膝をつきます。
そんな彼に弧次郎は我らが主君は北条時行。鎌倉殿の正統の世継ぎであられると地獄で触れ回れと告げました。
そして亜矢子が薙刀で死蝋の首を斬り落とし、とどめを刺しました。
一方時行と戦う瘴奸は全く攻撃が当たらず、焦っていました。
瘴奸は鈍重な大鎧を身にまとっているのもあり、次元が違う速度で逃げ回る時行にかなり苦戦している様子。
手首の傷から噴き出す血をいい加減何とかしなければと考える瘴奸ですが、時行はそうはさせまいと駆け出します。
瘴奸はそんな時行に刀を振るいますが、彼はそれをひらりと躱しました。
さらにその時に飛び散った瘴奸の血しぶきも、華麗にかわしてみせる時行。
そのうえ戦闘中にもかかわらず、楽しそうに笑みを浮かべています。
そんな彼の姿に瘴奸は唖然とし、(こいつ化物か!?)と動揺するのでした。
22話
幹部の腐乱と戦う吹雪。
腐乱は普通の太刀筋ではなく、変化する太刀筋で吹雪を攻撃します。
力任せの剣術がこの時代の主流であり、複雑な技術が広まるのはまだ先のこと。
そのため今これほど複雑な刃先を操る剣術は珍しく、吹雪は技を教えた達人がいるはずだと、師の名を問いかけます。
しかし、言う必要はないと拒否する腐乱。
組織の中で自分の能力を見せてしまえば、他の雑魚や幹部のように能力に応じて使いつぶされるため、道化を演じて頭の傍らに侍り、甘い汁だけしっかりいただくのが彼のやり方なのだとか。
研いだ爪を使うのは一瞬だけ。
その一瞬とは腐乱の爪に気づいたやつを殺すときや、頭を殺してこの党を乗っ取るときで、隠すことこそ乱世の処世術だと語る腐乱。
一方吹雪は戦いながら、彼の太刀筋を見極めます。
本来真っすぐ来る普通の太刀筋と手首で曲げる独特の太刀筋は、直前まで隠され見分けがつきません。
しかし腐乱の場合は振りかぶる時点で、すでにわずかに肘の高さが違うことを吹雪は見抜いていました。
つまり彼は隠しきれていないのです。
そして吹雪は腐乱の剣を受け止め、彼の股間を蹴り上げました。
思わず悲鳴を上げて退く腐乱。
完璧に隠せば恐ろしい剣技ですが、使い手が技の要点を理解していないと吹雪は言います。
そして吹雪は思ってたより大したものを隠してなかった、ガッカリだと言いながら、腐乱の攻撃を軽々と受け流し、彼の頭部を蹴り飛ばしました。
腐乱は二刀を自在に操り体術までできる吹雪を見て、どれだけ引き出しを隠してるのかと驚きます。
吹雪はこの村の戦略的価値や村の子供たちの戦術的価値のように、隠れた宝石を探し当てた時、冷めた体が少しだけ温かくなるのを感じます。
そんな彼が時行になぜか惹かれるのは、異常に巨大な何かを隠しているからでした。
そんな中、腐乱は背後から吹雪に襲い掛かります。
しかし吹雪は後ろを向いたまま腐乱の剣を交わして、スッと彼に近づきます。
そして「あなたはもう結構です」と冷たく言い放ちながら、振り返りもせず腐乱の首を切り裂きました。
一方時行は手首から血を流しながら追いかけてくる瘴奸から、逃げ回っていました。
すでに瘴奸はヨロヨロの状態で出血多量により、意識も朦朧としているようです。
そんな中、彼の脳裏に過去の出来事が蘇ります。
瘴奸の父は長男に全ての領地を継がせることを決め、瘴奸には兄と同居し補佐をしろと命じました。
しかし瘴奸が武芸と兵法を鍛えてきたのは、自分の領地を護るためだったため、兄の召使いなれといわれたのが納得できませんでした。
領地のない武士など武士ではないと悔し涙を流す瘴奸。
そして彼は居場所が欲しければ奪うしかないと考え、闇に堕ちていきました。
いつしか奪うことが快楽になり、子を売り自分と同じ未来なき闇に引きずり込んで気を晴らしました。
追われる身に安らげる場所はなく、大戦に誘われ一発逆転を狙いましたが、敗け戦で名を上げることも叶いませんでした。
そんなある日、楠木はいつも闇の中にいる瘴奸に、追手の来ないどこか遠くへ逃げたらどうかと提案しました。
どこかに光差す地もあるだろうという楠木。
しかし瘴奸は光などどこにもないと感じました。
その時、目の前で輝く光を見つける瘴奸。
そこには光り輝く生き生きとした時行の姿がありました。
彼の姿を見た瘴奸は勝てるはずがないと戦意喪失し、思わず刀を投げ捨てて手を合わせ拝み始めます。
この乱世でこんなに無垢に笑えるのは人じゃないと考える瘴奸。
こんな自分にも笑いかけてくれる時行が、瘴奸には仏様のように見えました。
そして瘴奸はついに息絶えて、その場に倒れ込みます。
しかしその顔は幸せそうに微笑んでいました。
気付けば部屋の中は瘴奸が撒いた血で地獄絵図に。
そんな中、部屋に弧次郎と亜矢子が現れ、時行を抱き締め健闘を讃えるのでした。
23話
大将の瘴奸との戦いに見事勝利した時行。
弧次郎や亜矢子たちも駆け付け、時行の健闘を讃えます。
吹雪は大将の死を知らせて回れば残りの敵は逃げ出すはずなので、あと一息だと話します。
しかしその時、外からドガッメリメリと何やら音が聞こえてきました。
外に出てみると貞宗が援軍を連れて、塀を破壊しながら村に攻め込んできていました。
貞宗は時行の姿を発見すると、また貴様か小僧!と叫びながら弓矢を引きますが、時行はかろうじて避けました。
吹雪はこの瞬間に正面口から援軍を送り込んできた貞宗は、戦の勘所を押さえていてさすがだと感じます。
他の味方も今いる敵の対処で手一杯なので、こうなっては勝ち目がありません。
村の南は敵がいないので味方をまとめて、そこから脱出を考える吹雪。
しかし村の南からも暗闇に紛れて松明を持った人影が大勢こちらに向かってきており、吹雪は敵軍かと焦ります。
しかし雫は違うと否定します。
南から来ていたのは、頼重率いる諏訪大社の援軍でした。
それに気づいた貞宗は諏訪の本軍と本格的に戦う用意はしていないため、慌てて撤退を指示。
そんな中、貞宗は開いた扉の内側に血がついている小屋を発見しました。
一方頼重は家来に貞宗を国境まで追い払えと命じた後、時行の前に現れます。
そして涙を流しながら「よくご無事で」と時行を抱き締めました。
頼重たちと共にやってきた玄蕃は、俺が全力で馬を飛ばしたから間に合った、感謝しろよと言います。
しかし道中で色っぽい女を見て鼻血で失血死しそうになった時は肝を冷やしたという玄蕃に、お前が死んでんじゃねーよ!と突っ込む弧次郎。
時行は頼重に、この村も自分も生き残れたのは吹雪のおかげだと言い、諏訪大社から特別な計らいをしてほしいと頼みました。
すると頼重は、むろん褒章は弾みますぞ!と嬉しそうに言いながら、吹雪と時行を抱き寄せます。
そして時行は頼重に、吹雪を我が郎党に迎えたいと伝えました。
頼重は良いですな!と即答しますが、吹雪はそれを慌てて止めて、友にはなりたいが郎党になるのは話が別だと言います。
自分が仕えたいのは天下を狙える主君だという吹雪。
どうやら彼は時行の本名も教えてもらっていないので、頼重のことを時行の主君だと勘違いしているようです。
そのため頼重はこっちが主君だと時行を指しながら「鎌倉幕府執権・北条高時の遺児、北条時行。一応天下を狙っている」と紹介しました。
それを聞いた吹雪は驚いて米粒を吹き出しました。
時行は素性を明かすのは頼重に相談してからと決めていたため、隠していてすまないと謝ります。
吹雪は彼が大きな何かを隠していると思っていたものの、予想以上のデカさに驚きを隠せません。
庶民としてならただの優しい逃げ上手ですが、そこに「北条の子」という条件が付けば、全ての能力が恐ろしい武器に化けると考える吹雪。
(・・・これは熱い)
吹雪はそう考えながら、笑みを浮かべます。
そして吹雪は「自分の粟飯代は高いですよ。それでいいなら、我が君」と言って、時行の前に跪きます。
吹雪はこの王子が隠した魅力の全てを引き出し、天下の舞台へ行ってみようと考えました。
こうして吹雪が時行の新たな郎党に加わったのでした。
その頃、撤退中の貞宗一行。
そこには敵兵たちに運ばれる瘴奸の姿があり、目を覚まします。
どうやら貞宗が部屋の中で倒れていた彼を見つけて命を救ったようで、あと一分止血が遅れれば死んでいたとのこと。
瘴奸は貞宗になぜ救援を出そうと思ったのかと尋ねます。
貞宗は瘴奸らが虐殺に時間を浪費しているという報告が入ったらしく、その隙を見逃すほど諏訪の対応は甘くないと判断し援軍に向かったようです。
誰が領民を殺せといった、無人の領地を手に入れても税収は増えぬわと、瘴奸に怒りを露わにする貞宗。
瘴奸は処罰を受け入れる覚悟のようですが、貞宗はこの度の作戦での瘴奸の戦略眼は卓越していたと評価しているようです。
いずれ来る諏訪との決戦のために、小さな領地をあたるため、そこで牙を磨けと命じる貞宗。
「以後貴様は賊であることを禁ずる、武士としてのみ儂に仕えい」
そんな貞宗の言葉に、瘴奸は穏やかな表情で「御意」と答えました。
瘴奸の頭の中には仏の姿が浮かんでおり、瞳からは「賊」が消え、毒気が抜けていました。
「悪党」はこの後次第に強大化した守護大名の支配下に入り、消えていきます。
奔放な賊侍たちが最後に花を咲かせた舞台。
それがこの時代なのです。
後日、時行は諏訪の者たちと共に死んだ武士を弔いました。
その後、頼重は時行を呼び出し、改めて今回のことについて感謝と謝罪をしました。
吹雪が指摘した通り、あの村は誰もが気づかなかった急所だったため、これからは守りの兵を駐屯させるとのこと。
孤児たちは当分諏訪大社で引き取るようです。
そして頼重は未来が見えない時期があることを、時行に打ち明けました。
ただ神の力はあると思えばそこにある、それに拠り所を求める者もいるため、皆には内緒にしてほしいという頼重。
その上で、時行に自分が力を取り戻す手伝いをしてほしいのだと言います。
そして頼重は自分の力の源泉を、この世にはまだ武力や知力で測れない不可思議な力が残っていることを知っておいてほしいのだと語るのでした。
24話
時行は頼重の神の力を取り戻すため、誰にも知られないようひっそりとミッションを行っていました。
まず時行は弧次郎と亜矢子に突然食べたくなったのだと言って、うなぎを獲ってきてもらい、それをこっそりと頼重の元に持っていきます。
頼重曰く、以前もうなぎを食べたら失われた神力が戻ったようです。
失われた神力が戻るきっかけは様々で、過去を参考に一つ一つ試すとのこと。
そして頼重は諏訪の名産品でもあるうなぎを焼いて、食べましたが、神力は戻りませんでした。
ということで次に頼重は、時行に行者にんにくを依頼。
時行は頼重の希望と悟られぬよう、食べてみたくなったと言って巫女に裏山まで行者にんにくを採ってきてもらいます。
行者にんにくは山で修行をする山伏が好んで食べる山菜で、刺激的な香りが魔を払う力を呼び起こすのだとか。
頼重はそれを食べてみましたが、神力は戻りませんでした。
さらに時行は家臣に声をかけ、しめ縄を調達します。
縄で囲ったその中は神の領域とされ、神の力を高めるには最適の空間なのだとか。
しかしそれでもダメだったため、時行は頼重の依頼により今度は巫女の形の人形を作りました。
神道では男も女も等しく不可欠で巫女の役割は重要なのですが、巫女たちには内緒なので巫女の人形を使って儀式をするとのこと。
ところが精のつくものをたくさん食べて、等身大の巫女人形を作っていた時行の行動を見て、弧次郎たちは時行の性癖がエグイと誤解してしまいます。
盛高はまだ八歳の時行がそんな高度な領域にいるのかと信じられないようですが、玄蕃はボンボンほどド変態に育つもんだと言います。
そんな彼らに吹雪は、主君がド変態だからといって、皆さんの忠義には変わりないはずだと声をかけます。
弧次郎や亜矢子はそれに同意し、郎党として武とド変態を極めると宣言しました。
そしてその話を聞いてしまった時行は、血相を変えて頼重の元に戻り、あなたの訳わからん秘密のお使いのせいで郎党たちにとんでもない誤解を受けている!と訴えます。
時行は神力の秘密など知ったことかと怒り、頼重を連れ出して、みんなの誤解を解かせようとします。
しかし頼重は、これでダメなら諦めるのであと1つだけお願いを聞いてほしいと要求。
ここから歩いて一里ほどの場所にある、諏訪大社のご神体でもある守矢山に流れる聖なる沢の水を汲んできてほしいと頼みました。
それを飲めば一発で治るという頼重に、最初にそれを言えと激怒する時行。
どうやら頼重は、うなぎとにんにくを食べたかっただけのようです。
ということで時行は渋々守谷山に向かいました。
しかし神力が存在するのか、いまだに怪しいと感じる時行。
今まで見せた力も偶然かもしれない、精強な軍勢を率いれるのだから、あやふやな力に頼る必要はないだろうと考えます。
その時、山を登って沢に辿り着いた時行の前に光るものが。
よく見るとそれは雫でした。
雫は神に奉納する神楽舞を踊っており、無数の光と戯れているように見えます。
すると雫が時行に気づきました。
なぜこんなところにいるのかと尋ねる雫に、時行は水を汲みにきたのだと伝え、こんなところで何をしているのかと聞き返します。
雫は頼重の非願成就や諏訪の繁栄、この世の平穏を彼らと一緒に祈っていたのだと言います。
しかしそこには何もないため「・・・彼ら?」と首をかしげる時行。
すると雫は何かに気づき、時行に少しかがんで眼をつぶってと指示。
そして雫は時行の目に口づけをしました。
これで時行の眼にも少しの間何かが見えるはずだという雫。
時行が眼を開けてみると、そこにはおぼろげな光を放つ諏訪の神域に住まう神獣たちがいました。
彼らは何らかの力を貸してくれることはないようですが、ここで祈ると見守ってくれるのだとか。
その中には以前時行たちが殺した巨大猪の牡丹の姿も。
時行は幻でも見ているのかと、驚きを隠せません。
この時代は人と不思議が共存していた最後の時代でした。
「妖怪を見たら大地震が起きた」「天狗が町中を飛び回った」など、そんな話が公的な文書に「事実」扱いで記されています。
この当時の国にとって、祈ることは現実的な公共事業であり莫大な予算が注ぎ込まれていました。
そして雫は時行が頼重の命で来たのだと察し、入れ物に沢の水を入れて軽く口づけ。
雫は「これで治ると思います」と言いながら、それを時行に渡しました。
そうこうしている間に不可思議な神獣たちは、見えなくなっていました。
時行はなぜ頼重がそれを自分に見せたのか不思議に思いました。
そして雫のことも何者なのかと感じるのでした。
その頃、京では足利尊氏が大きな筆で壁に仏の絵を描いていました。
尊氏がよく描けたと満足げに微笑むと、その仏の絵が時行が見た神獣たちのようにおぼろげな光を放ち始めます。
そして尊氏は「直義をここへ。天下をえがく話を始めよう」と告げるのでした。
25話
足利尊氏の実弟である足利直義が、尊氏の元を訪れました。
そして早速尊氏は、鎌倉に赴き、守りを固めてほしいのだと直義に命令します。
「いつもの”勘”ですか」と問いかける直義に、北条の残党がそろそろ乱を起こしそうな予感がすると話す尊氏。
それを聞いた直義は、兄上の勘は昔からよく当たると、幼い頃を振り返ります。
直義は子供の頃に宝の隠し場所を三日三晩かけて暗号にしたことがあったようです。
兄上でもこれは解けまいと自信満々だった直義ですが、尊氏は彼が暗号を渡す前に勘で宝の場所を当ててしまったのだとか。
しかし尊氏はお前には勘で勝てても頭脳では敵わんと言います。
どうやら直義は先ほど尊氏に頼まれた鎌倉の防衛策を、すでに百通りほど思索しているようです。
直義は京と鎌倉を自分たち兄弟で盤石にすれば、国内の武家は全て足利に従うだろうと言いながら、尊氏とグータッチをしました。
武とカリスマと直感の尊氏、知と冷徹と理論の直義。
正反対のタイプの俊才二人ですが、兄弟仲はすこぶる良いようです。
そんな中、尊氏がまた御仏の絵を描いたから見てほしいと言いながら、直義をとある部屋へと案内します。
しかしなぜか浮かない表情の直義。
暗い部屋の壁には尊氏が描いた御仏の絵がありました。
すると直義は北山産の極上の杉板が手に入ったため、ちょうどこの部屋の板壁にどうかと思っていたのだと話します。
そこで杉板をタダで尊氏にあげる代わりに、この見事な御仏の絵を自分がもらいたいと要求する直義。
尊氏は好きに持っていけと快く承諾し、部屋を去っていきました。
しかし直義は尊氏に頭を下げながら、なぜか冷や汗をかいていました。
最近の尊氏について、直義は勘が鋭いという域を超えて人間なのかと疑いたくなると感じていました。
そして直義は家来を呼び、御仏だけ保存して後は焼けと命じます。
尊氏の信者にこんな絵は見せられないという直義。
実は尊氏の描いた御仏の絵は、獣に食われる寸前の御仏を描いた絵だったのです。
つまり尊氏は御仏のことをエサとしか認識していませんでした。
鎌倉を奪った足利尊氏と、その鎌倉を防衛する足利直義。
天下に立った兄弟と北条時行が激突するまで、一年半を切っていました。
一方、時行は頼重の命により、持ち帰った沢の水を頼重に渡していました。
時行は雫について何者なのかと尋ねますが、頼重はいずれ彼女から話すだろうと何も答えませんでした。
頼重は早速沢の水を飲みながら、時行が見た神獣たちは神力が形を成したものだと話し始めます。
神力とは人の目が届かないところに存在できる力。
それは時行と同じだという頼重。
この世にもっと人の目が多く社会の監視が発達していたら、時行ほど影響力の大きなお尋ね者は存在できないと言います。
先日戦った悪党たちも、人の目に見えない場所があるからこそ初めて存在できる「力」なのです。
しかし今これらの力は枯渇しようとしているという頼重。
「御恩と奉公」で土地を持つ権利が保障されると人は土地への執着が強くなり、人が住む範囲が広がり、人の世が広がれば目に見えない場所も減っていくのです。
このような不可思議も不可思議でなくなると言いながら、頼重は氷の張った諏訪湖に手を置きました。
すると諏訪湖一面の氷が真っ二つに割れてしまいました。
それを見て驚きを隠せない時行。
これは諏訪湖名物「御神渡り」というもので、今は皆諏訪明神が神力で起こすと信じていますが、より多くの人の目に触れれば、いずれこれも自然現象として説明される日が来るだろうと頼重は話します。
つまり人の力が増える分だけ、神の力は消えるのだとか。
人が現実だけを見るようになれば、神も神力も全て消えてなくなる、それが時代の流れなのだと頼重は語りました。
その話を聞いた時行は寂しそうに、頼重もいつか消えてなくなるのかと問いかけます。
すると頼重の後頭部が突然光り出し、驚く時行。
どうやら神の後光が完全復活し、神力が戻ったようです。
そして頼重は今は見えない力が活躍できる最後の時代で、時行の能力はこの時代にピッタリの力だと話します。
あなた様は神ではなくただの人、今を目いっぱい生きなされという頼重。
今いる遊び場所はいずれ溶けてなくなるため、時代の変革期を心残りなく遊び倒せばいいと言いながら、頼重は時行の手を引っ張り、諏訪湖の氷の上を滑り始めます。
そんな彼の言葉に、時行は「・・・はい!」と答えて微笑みました。
すると時行は頼重に、自分の遊びの後始末をちゃんとしてほしいと要求します。
その後、頼重は時行に作らせた人形と戯れ、わざと弧次郎たちに見せつけました。
時行が変態だと勘違いしていた弧次郎たちは、頼重が時行を使って自分の趣味道具を揃えていたのだと解釈し、ドン引きするのでした。
逃げ上手の若君3巻あらすじ
諏訪領、北の国境で 瘴奸率いる悪党が非道な侵略を開始し、大人は皆殺しにされ、幼子だけが村に残されていた。時行は二刀使いの青年・吹雪と出会い、彼の緻密な策略で悪党の追撃を凌いでいたことを知る。時行の逃げ上手に着目した吹雪は、敵大将を討ち取る奥義を授ける…!
逃げ上手の若君4巻あらすじ
後醍醐天皇が送り込んだ国司・清原信濃守の圧政に耐えかねた諏訪神党・保科弥三郎は勝ち目が無いと知りながら反乱の兵を挙げる。保科党を止めようと説得に向かう時行だったが、戦場で散ることを美学としている武士たちに時行の声は全く届かないまま、開戦してしまい…?
逃げ上手の若君5巻あらすじ
小笠原貞宗に北条の重臣ではないかと疑われた時行は、一対一の舌戦に臨む。正体を明かすわけにいかない時行は射抜かれる言葉の矢を巧みに躱すも、補佐役・市河の登場で事態は急変して…? さらに後醍醐天皇の命により信濃各地で再び動乱が渦巻く! 天下を取り戻す前哨戦へ突入する!
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