54話
11月3日日曜日・・・ついに迎えた「合奏コンクール」当日。
海幕高校の演奏は17時からです。
それまでの時間は各自チューニングと練習を行いますが、
部員たちからは静かな中にも緊張感が、そしてそれぞれから大会にかける熱意が伝わってきます。
そんな雰囲気を肌でビリビリと感じながら、同時にワクワクもしています・・・。
不安と期待の入り混じる中で、精神を集中させ来るべき演奏の時を静かに待ちます。
去年優勝した「秋田仙丈高校」は海幕よりも前に演奏を行いましたが、
応援に駆けつけたOB達も、海幕のライバルが仙丈だなんて・・・と、
ちょっと弱腰になってしまいます。そのくらい完璧な演奏を見せつけられてしまいました。
しかし原田は「僕は何も心配してないよ。」と言います。
「実は一昨日、帰りに羽鳥と会ったんだ。コンクール近いし、オケ部はどんな様子か
聞いてみたんだけど・・・そしたら・・・『俺を甘やかさないでください!あんたは過保護すぎる!』
・・・ってバッサリ」と羽鳥の様子を伝えます。
原田のおせっかい心を見抜いた羽鳥は続けて「大丈夫ですよ原田さん。ちゃーんと後輩たちから
貰うもん貰いましたから」と笑顔で話たことも、原田の気持ちを落ちかせるポイントとなったようです。
「だから今日は僕も観客として楽しもうと思うんだ。受験勉強の息抜きにもなるし」と
伸びをして、リラックスする様子を見せつける原田。
しかしどんどん大きく、頼もしくなっていく後輩達に少し寂しさを覚えるのでした・・・。
海幕高校の演奏開始まで15分前となりました!
顧問のリハーサル終了のコールに、「ありがとうございました!!!」とより気合の入る部員達。
しかし実際は緊張でガチガチです。そんな様子を見抜き、顧問は深呼吸を促します。
そしてこんなことを語り始めるのです・・・。
「・・・今思えばお前たちの代は、歴代の海幕オケ部のどの代よりも、
褒める回数が少なかったと思う。合奏練習の時の俺の態度を見れば一目瞭然だったろう。
それでも俺がいちいち口を挟まなかった理由はわかるか?
それは、この代の部員が主体的に動かなかったからだ。上の先輩たちと比べて・・・
人との繋がりが弱く、自分からは動くことはしない。
『誰かがやってくれるから』皆がそう思い、本来ならできることも成せずに終わる・・・
いつまでも他人任せなお前たちに正直失望することもあった。」と・・・。
それを聞いて、顔が暗くなる部員たちです。
確かにこの代は、これまで先輩方の築き上げてきたスタイルとは何から何まで異なるものでした。
問題も多くありましたし、決して一筋縄ではいかないドラマの連続だったのです。
でもこうして迎えた大会の当日。まさかこんなことを言われるなんて・・・!?
「なぜ今、俺がこんなことを言うかわかるか?・・・今ここで緊張しておけば・・・
これ以上緊張することはないだろ?」と意地悪く笑ってみせます。
羽鳥はいつもの調子で「ひっでぇやり方〜」とツッコミ。
それを聞いて、一気に涙目になる部員たち!
「お前たちが変わったのは知っている。もう先輩たちに負けてない。それを証明しに行こう」と激励します。
確かに、開幕高校のオケ部は変わりました。着実に進化を遂げています。
涙目になる部員たちの心には、いろんなことを乗り越えてきたんだ!という誇りと自信が。
「じゃあ最後にあれやっときますか!」の羽鳥の掛け声で
「一音一会!!!!!!」の円陣を組みます。気合は十分、いよいよ出番です!
舞台に向かう部員たちの顔つきは、キリリと精悍な顔つき。
先輩達も見守る中、ついに演奏が始まります・・・!
55話
千葉県海幕高校の演奏がついに始まります!
演奏曲は「バッカナール」です。
舞台裏で、直前に打ち解けた雰囲気とはうって変わって
一度楽器に息を吹き込めば、ここからはもう別世界・・・!
ゆったりと手招きするように、妖しく、でも艶やかに、オーボエの音が響きます。
いきなりのソロに、聴いている側は意表を突かれたと言う感じで思わずハッとします。
まるでその音色は、古代オリエント。東に広がるアラビアンの・・・
そんな異国情緒あふれるエキゾチックな音色に、おもわず会場の観客全員引き込まれます。
その様子を感じ取った指揮者である顧問は、余裕の笑みをこぼします。
伸びのいいオーボエのソロで始まり、今度は軽快なリズムで宴が始まるかのよう。
熱と喧騒に浮かされた人々が、酒を酌み交わして喜び踊る盛大な宴。
その中心で一際輝き舞っているのは美女のデリラ。
ついにデリラが、憎き男を捕らえた!と、民衆達は大喜び。
実は敵対するヘブライ人の英雄サムソンを、ペリシテ人の美女デリラが誘惑し捕らえたという
物語性がこの音楽の中にはあります。
この「バッカナール」とは、勝利の酒の宴のこと。デリアに祝杯する宴なのです。
そんな楽しい宴に欠かせないリズムが、ものの見事に管と弦の息ぴったりで響きあいます。
ティンパニの正確なリズムも、どれだけ練習すればこんな演奏ができるのだろう・・・?と
観客に思わせる程に、それだけ圧倒的な演奏技術なのでした。
そして続いてコンマス。真剣な表情の羽鳥。
手元の正確な演奏に、全員釘付けになります。
全身を使ってリズムをとる羽鳥のスタイルは、「バッカナール」さながら
まるで弓が弦の上で踊っているかのようです。
「バッカナール」は、華やかなドレスを着て踊る舞踏会のような感じではなく
時に官能的で原始的な宴です。だからこそ本能のままに乱れ快楽的な表現となります。
客席で固く手を握っていた原田は、演奏が始まりその緊張が次第に解けていきました。
かつて原田は羽鳥に「・・・羽鳥くんって柔らかく弾くよね。」と言ったことがあります。
原田は、その羽鳥の演奏が耳に心地よくするっと身体に入っていくようだと形容していました。
それに対して羽鳥は「・・・俺、軽快な演奏が得意なんです。
楽しくて情熱的な曲も良いけど・・・どっちかっていうと、しなやかで
風に流れるような演奏が好きっつーか・・・」と話していました。
それを聴いた原田は、なぜか羽鳥に対して内に秘めた余裕に色気のようなものを感じたのでした。
そこで2人で早速合わせて弾いてみることになったのですが、
演奏もやはり、掴み所がなくて、のらりくらりと言葉を交わす原田そのものと言った感で・・・
しかしそれが自分にはすごく心地の良いものだったと、原田は振り返ります。
その羽鳥の宴のようなリズム取りが終わり、今度は穏やかな曲調へと転じて行きます。
熱帯に優しく吹き抜ける夜風のように・・・しなやかに、そして優雅に。
本来の羽鳥の持ち味が活かされていて、弾いている本人が一番心地良さそうです。
一方、そのうしろに控えている秋音は大会会場に足を踏み入れる際に
立花にほっぺをツンと指さされ、「秋音なら大丈夫よ。」と言われたことを思い出していました。
「・・・そんなに緊張するなら、あの時の演奏を思い出せばいいのよ。」とニヤリとする立花。
立花とは色々あって最初はあまり仲良くなれないと思っていた秋音でしたが、
放課後の教室で2人で練習するあの長い時間の間に、2人だけの確かな友情が育まれていました。
穏やかだった曲調が一変し、今度は空気が震えだすような・・・
熱が大地の底から湧き上がるかのような音・・・それはサムソンの怒り!
再び会場はこの雰囲気に全員丸呑みされてしまいます。
静かに伝播していく緊張感・・・いよいよ演奏はフィナーレへと向かいます・・・!
勝利に酔いしれるデリラたちに連れられ、見世物とされてしまったサムソン。
嘲笑され辱めを受けるサムソンは怒りがこみ上げてきます・・・
しかしサムソンにはもはや力はなく、内側に湧き上がってくる怒りをただひたすらに
その身に溜め込むしかできないのです・・・。
この怒りに震えるかのように、弦楽器が鋭く響きます。テンポがどんどん加速していくのは
サムソンの内なる怒り!神様どうか最期にもう一度・・・俺に力を!!そう切望する
サムソンの感情にぴったりシンクロするかのような演奏に圧倒される観客たち。
徐々に力を取り戻していくサムソンに気がつかず、踊り狂っているペリシテ人の
快楽と喜び、陶酔と狂乱。色々な感情を抱えながら、どんどんその音は大きくなってきます・・・!
打楽器担当の優介は2ndの日向がオケ部を辞めたと聞かされたときのことを思い出していました。
そこに滝本が現れ、日向と仲の良かった滝本に事情を聞いてみるも
どこか我関せずと言った態度。経験者である滝本が抜けるのは2ndにとっては痛手のはずですが
それでも「いや、私に言われても・・・まあ先輩たちもいるし大丈夫なんじゃない?」と言われ
優介はその言葉にどこか寂しさを感じ、大事なことはもっと共有していくべきだ!と、つい熱くなるも
定演は無事に終えたんだしや、自分のパートの打楽器のことをもっと考えたら?と言われた日のことを・・・。
人とぶつかることから避けて自分からは動くことをしなかった自分たち。
立花が後輩への引き継ぎがうまく言っていなかったことも薄々気がついていましたが、
何もできない・何もしなかったという反省があります。
鮎川が演奏前に部員たちを集めて話たその言葉の通り、一見うまく言っているかのような関係に見えて実は冷めている。
ある日、優介はその想いを「1年前の自分を殴りたいな」と打ち明けたことがありました。
俊樹はその優介の想いを汲み「今度は俺たちがやろう!」と、言うのでした。
お節介をしないように、というのは結局ただの怠惰だったと気がつき
自分たちはそれを変えなければならなかったという「後悔」のある3年生たち。
その全てを音にのせます!!!!!
サムソンを拘束していた枷が外れたかのように、そしてその怒りが溢れるように管楽器たちが激しく震えます。
サムソンの怒りが全てに向けて降り注ぐかのように・・・。
一方の俊樹も、優介との出来事を思い出していました。
自分はいつも優介に頼りっぱなしで、何かを変えたくてもなかなかそれが出来なかったという自分へのイラつき。
ずっと抱えてきたその怒りを、ここで全て爆発させるんだ!と、俊樹渾身の演奏が始まります。
本音を出さなかった自分を、ぶつかること、責任、許せないものから逃げていた自分の怒りを・・・!
まだまだ音が広がり続ける演奏に乗せて、多くの命を奪い膨らみ続けるサムソンの怒りは
止まることなく全てを飲み込んでいきます。たとえ己の命を削ろうとも・・・!
そして、ついに静寂・・・!そこにはサムソンが破壊した残骸が月に照らされ残るのみなのでした・・・。
演奏が終わると、拍手喝采。そこには感動で涙ぐむ者、敬意の表情を浮かべる者、
原田は確かな手応えを感じつつ、満足げに微笑むのでした。
56話
演奏が終わりほっと一息つくハジメは、自動販売機でジュースを買おうとして
小銭が十円足りないことに気がつきます。優介はそんなハジメに小銭を入れてやり、
それを機に2人は話し始めるのですが、ハジメは他の学校の演奏を聞くと自分たちよりも上手く聞こえてしまうと
思わず不安な本音を漏らしてしまいます。
優介は「・・・実際上手いでしょ。演奏を聞いて正直まずいなって思った学校がいくつかあるし」と
冷静そうに見える優介でさえ実は不安と緊張でいっぱいだったと知ります。
結果発表が気になり時計を気にする優介は最後に
「・・・でもまあ、今は自分の手応えを信じてもいいんじゃない?」と言い残しその場を去ります。
フォローのつもりなのでしょうが、逆のその言葉はハジメをより不安いっぱいにさせました。
いよいよ結果発表・・・何が正しくて・・・何がダメなのか、
ハッキリと優劣をつけられないものだからこそ、期待と不安が入り混じります・・・。
ハジメにとってこの緊張感は初めてではありません。しかし、やはり緊張します。
結果発表のアナウンスが始まり、それまでガヤガヤしていた会場が一気に静まりかえります。
次々と発表される成績、ゴールドを受けて泣いて抱き合う他校の生徒達を尻目に、
いつもより発表までの時間が長いと感じているハジメです。
なぜ今回はこんなに緊張するのだろう?これまでのコンクールは、
結果はどうであれそれを受け止めるのは自分だけだったから気が楽だったのだと心の内を自ら分析します。
でも今回は・・・?ハジメの視線には夢破れ、涙する他校の生徒達は。
緊張の理由は、みんなにはこんな泣き顔をして欲しくないなというハジメの優しさにあったのです。
さて、結果発表も残すところ2校となりました。
ここで呼ばれたら連覇はストップとなる「千葉県立海幕高校」と、
今年こそは最優秀賞を狙いたい「秋田仙状高等学園」、果たして軍杯は・・・!?
何と・・・!海幕高校に上がりました・・・・!!!!!
泣き崩れる者、そして得意げ満足げに静かに微笑む者、喜びのハイタッチをする者、
それぞれの想いを抱えて壇上には代表として俊樹が上がります。しかしその顔は涙でぐちゃぐちゃです。
そんな俊樹を見て、静かに拳を握る優介の様子に気がついたハジメなのでした・・・。
こうして、第24回全日本学校学校コンクールは閉幕となりました。
最後に、俊樹が部員達のこれまでの努力を労います。
これまでに色々不安なことや辛いこともたくさんあったと思います・・・
そう言いかけながら言っている本人が想いが溢れてきて思わずまた涙。羽鳥に締めのスピーチをお願いします。
それを受けて羽鳥は「こんなコンマスについてきてくれてありがとう」と挨拶をしますが
その言葉はなんだか引退のスピーチのようだと茶化されます。
まだ引退は少し先ですが、引退の匂いを感じ取る部員達は少し寂しげな雰囲気に。
そして羽鳥は滝本を紹介し、滝本は2ndのパートリーダーが自分と交代で福留が今後務めることを発表するのでした。
「私は・・・家の事情があって明日以降練習には参加できません」と頭を下げる滝本に、
仲間は「みんな知ってたよ」と、笑顔で滝本を送り出す姿勢を見せます。
ちょっと早いからもしれないけど、みんなからのお疲れ様の気持ちだと花束を贈り
サプライズの形で送り出されることになった滝本。大きな拍手を受けて思わず涙が溢れます・・・。
大会の帰り道、律子達いつものメンバーと個人的に打ち上げに行ったハジメは、
打ち上げ先のファミレスで同じく打ち上げをしていた滝本ら3年生と鉢合わせるのでした。
すっかり肩の荷が降りて、穏やかな表情となった滝本は「・・・青野くんも色々ありがとね。」と耳打ちします。
そして「あいつも青野くんのこと褒めてたよ。」と笑顔で手を振るのでした。
そのあいつとは・・・まさか優介?と思うも、まさかなと考え直します。
しかしドリンクバーで優介にばったり会ったハジメは「来年はどうなるかわからないからね。」と
少し厳しい言葉をかけられつつも「・・・おそらく代替わりをすれば・・・
次のオケ部の主体は青野くんになるだろうし。」とそっとエールを贈られるのでした。
それを聞いて嬉しくなって舞い上がるハジメ、こうしてそれぞれの長い長い1日が終わるのでした・・・。
57話
コンクールが終わって1週間が経ち、11月10日。季節は冬へと向かっています。
待ち合わせの時間を気にしながら、そしてショーウィンドウに映る自分を見つめながら、どことなくそわそわするハジメ。
そこで待っていた相手とは・・・「小桜さん」!今日は久しぶりの部活休みで、2人で楽器屋さんに行きます。
が、電車での移動中も妙にそわそわ。何か話た方がいいのかな・・・でも何を話せば?ふと横を見ると
小桜もどことなく緊張している様子が伝わります。が、小桜がコンクールでの話題を振ってきたので
ハジメは他校の演奏を聴くとやる気をもらえる。とようやく会話らしい会話を成立させる事が出来ました。
しかし次の演奏会は来月ですが、その前に期末テストがあると小桜に言われ、がっくり肩を落とすハジメ。
そんな様子を見て小桜は、「今度テスト勉強一緒にどうかな?」と誘うのでした。ハジメが反応に困り
「えーとそれは・・・」と言うと、駅についてしまいパッと小桜も話題を変えたため、それは2人でなのか?とまでは聞けず仕舞いに・・・。
ハジメ行きつけの楽器屋に到着すると、そこでマスターに2人は恋人同士なのかと言われ、顔を真っ赤に慌てる2人。
小桜は焦っていたとはいえなんでムキになってあんなに全力否定してしまったのか・・・とあとで少し後悔します。
結局ヴァイオリンの仕上がりは明日以降になると言われ、また2人で一緒にここに来られるとホッとする小桜でしたが
楽器店を出てすぐに駅へ向かおうとするハジメに、デートだと思っていたのは自分だけだと少し残念な気がするのでした。
が、ハジメはご飯でも食べてこうと提案してくれ、表情がまたすぐにパッと明るくなる小桜です。
2人はファストフード店の席に着き、共通の話題として「秋音」の話をするのですが、なんだか話しているうちに
ハジメと秋音の仲を疑いネガティブになってくる小桜です。仲は普通だと言うハジメですが、
友達が出来ず人間関係に悩んでいた小桜にとってはその「普通」が羨ましく映るのでした。どうして自分が傷つくのわかって聞いてしまうのだろう?
ハジメが席を立った時、小桜はもっと別な話題を振ろう、自分は変わるべきだ!と、決心。
ふと携帯をのぞくと「町井先輩」からの「楽しんできてね」の文字に励まされます。が、小桜が顔を上げると・・・
そこには中学の時自分をいじめてきた張本人篠崎が。いきなりその当時の思い出がフラッシュバックします。
篠崎は、小桜が不登校からの転校となった後、先生達に自分が色々聞かれるハメになりうざかったと言います。
そして篠崎のその場に居合わせた友達まで、そんな小桜を見てゲラゲラ笑っているのです。
篠崎は更に高圧的な態度で「ねぇ、小桜さんもご飯食べてたの?ウチらもさーちょうどこれからご飯なんだよね〜小桜さんおごってよ」と言い放つのでした。
58話
篠崎は小桜が不登校となった末の転校で、自分に迷惑がかかったと言い、その見返りとして
ご飯をおごるように要求してきます。動悸で手も震える小桜・・・全身が氷のように冷え切っていくのを感じます。
うつむきながらごめんなさいと消え入る声で言いますが、篠崎はお金を差し出すよう催促する手を引っ込めません。
黙り込む小桜を見かね、ついに小桜の財布に手を伸ばそうとしたその時・・・
背後からハジメの「・・・何してんの?」が。そして、それ犯罪じゃないの?と冷静に指摘するハジメ。
篠崎のしている事は恐喝罪にあた流ので、警備員を呼ぶと淡々と言います。一瞬ひるむ篠崎とその友達ですが、
小桜の方に駆け寄ってもまだ引こうとしない篠崎に、ハジメは警察の方がいいかな?と、こちらも引きません。
この不穏なやりとりに周囲の目も集まってきたため、篠崎は突然態度を変えて、ちょっと借りようとしただけだと取り繕います。
そして、ハジメのことを「ていうか、有名人の青野くんじゃん。同じ中学だったの覚えてる?
中学にはあまり良い思い出ないから、思い出したくないか!」とハジメの神経を逆なでするような事を言ってきます。
しかしハジメ、それには動じず「あんた誰だっけ?」と返します。それに気を悪くした篠崎は、
逃げ者同士くっついたんだと言いながら、「・・・でもさぁ、そいつだけはやめといた方がいいよ?
関わるとろくなことがないから。小桜のさんの生で、秋音さんも不登校になっちゃんたもんね?」と追い打ちをかけるのでした。
この件に関しては、秋音に負い目がありずっと苦しい思いをしてきた小桜です。1番触れられて欲しくない過去なのです。
ハジメは、篠崎の腕を掴みかかり「小桜さんに謝れよ。」と、その表情はすごい気迫に満ちています。
いよいよ周りに人が集まってきてがやがやし始めてきたので、ばつが悪くなった篠崎は急に弱腰にごめんと言いその場を立ち去ります。
・・・篠崎達が去って、ハジメはドキドキしたと言いまたいつもの穏やかなハジメの表情に戻るのですが
小桜はその場にしゃがみこんで泣き出してしまいます。弱くて何もできない自分を、惨めな自分も見られてしまった・・・
いつも過去の自分がいつか知られてしまうんじゃないかと不安に思っていた小桜。その過去が思いも寄らない形で明るみなってしまいました。
その後2人は店を出て、落ち着いた場所で2人きりで会話をします。そして小桜は、自らのいじめ体験、
それが原因で母の泣く姿を見てしまったこと、自分をかばった秋音がいじめられていたこと、
そして気付いていたのに何もできなかったこと。その胸のうちにある感情を全て吐き出します。
ハジメは小桜の話を真剣に受け止めます。そして自分自身の過去の嫌な思い出、父親がニュースになったことを思い出します。
どこか小桜の過去に共感できるハジメ。そしてハジメは小桜の気を配るのが上手なところなどを見つけてやり
改めて、小桜は偽物なんかではなく、高校生のいまの小桜こそが本当の小桜なのだと伝えるのでした。
その夜、家に帰りお風呂で1日の出来事を振り返る小桜。改めて今の自分を変えていかなければらないと決意します。
町井から来ていたメッセージには何か進展はあったかと書かれており、いろいろあった1日でしたが
改めてハジメのことを思い出し、1人赤面するのでした・・・。
59話
小桜との出来事から一夜明け、寝不足気味のハジメ。通学途中も、ふとした時に思い出してします。
本当にあれでよかったのかな・・・?と。しかし通学途中、小桜とばったり鉢合わせになり、
思い切って昨日の篠崎との出来事を話題にしてみます。余計なことをしたのではないかと心配していたハジメでしたが、
小桜は、ハジメの言葉にたくさん救われた事、そして嬉しかったという自分の正直な気持ちを伝えるのでした。
が・・・今日の2人はお互いどこか意識しているよう。小桜の肩を突然つかんでしまった事も含め。本当にハジメらしからぬ・・・。
ハジメは話題を変えようと、小桜のヴァイオリンがスペアなのはなぜかと尋ねてみます。
そう、この2人・・・一緒にヴァイオリンの修理に出しましたが・・・何とハジメ、それを忘れていて
ハジメの分は今日母親が仕事帰りに取りに行ってくれる事となっていたのです。それを聞いて一瞬固まる小桜。
2人の間には変な間が・・・最終的に小桜も、自分も母親に頼むつもりだったと言いますが間違いなく気を使っています。
やってしまった・・・!そう落ち込むハジメ。しかしクラスに到着すると、いつも通り明るい様子の秋音が
何やらハジメに頼みがあるよう。いつも忙しくて自分の演奏会に来られない2人のために、
母親の誕生日にはプレゼント的な意味合いも込めて、ヴァイオリンの演奏をプレゼントしたいのだと言います。
秋音は、他にこういう人は頼めないからとハジメにお願いしますが、ハジメはなぜ親友の小桜に頼まないのか不思議に思います。
小桜の話をすると「・・・・あ・・・・うん。そっかそうだよね・・・・。」と口がごもる秋音。
しかし最終的に「まぁいいけど」とハジメが承諾すると、パッと明るい表情となるのでした。
その見返りとしてハジメに勉強を教えてあげる事にした秋音。その関係性はなんだか中学の頃みたいだと2人は笑い合います。
・・・こうして2人の放課後のヴァイオリン特訓と勉強は始まりました。
そして2週間後・・・秋音の家に招待されたハジメ。母親の帰りを待ちながら、ご飯の支度をしていた秋音が出迎えます。
母親の誕生日を祝うとだけあって、居間は豪華に盛り付けられ、料理もバッチリ用意され、
本当に家に上がっていいのだろうか・・・?と少し緊張し始めるハジメです。
母親が帰ってくるまで残り30分くらいあるから、部屋で練習がしたいという秋音に呼ばれてハジメも部屋に入りますが
ハジメは完全に顔は赤くなって小さく固まってしまいました。しかし実はそれは秋音も同じ。
普段通り振る舞う秋音でしたが、完全に意識しています。そして母親帰宅の時間となり、盛大にクラッカーで出迎える2人。
秋音母は一見キビキビした厳しそうな母親ですが、話してみるとかなり柔らかい感じで、ハジメをウェルカムモード。
秋音を支えてくれている事に感謝をする母親。ハジメも普段の秋音の様子などを伝えます。
すると「んふふ、うちの娘も見る目あるじゃーん」と、上機嫌になる母親です。
そして「でも安心したわ。こんな良い子が律子の彼氏なら大歓迎よ!」とニッカリ笑うのでした。
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