あなたがしてくれなくても58話
吉野は私ですと電話をとったみちは新名の妻だと名乗られ、ドクンと心臓が大きく鳴り響きます。
何で、新名の妻から電話がきたのかと、心臓はドクドク動きっぱなしです。
楓はみちに話したいことがあるから、今から会えないかと聞きます。
その言葉にみちはサァー青ざめていきます。
新名とのことが知られているのか?どこまで知っているのか?何を話すのか?
声を振り絞り、分かりましたと返事をします。
みちは電話を切った後、震える手をギュッと握り、本当のことを話し誠心誠意謝ろうと誓います。
みちは楓と約束したカフェの前で一呼吸し、中に入ります。
席で俯いている楓に吉野ですと声を掛けると、楓は顔を上げます。
楓を見たみちは綺麗な人だなと感心してしまいます。
そして、向かいの席をどうぞと言われ腰を下ろします。
楓は向かいに座るみちが腰を下ろしたことを確認し、すぐさま伺いたいことがありますと口を開きます。
誠が浮気をしていて、その相手はあなたですよね?と全てを知っているかのように訪ねてきます。
全てを知っているような堂々とした楓を前にして、みちは青ざめた顔をしながら否定することなく、はいと答えます。
その答えにやっぱりといった表情で、今でも会っているのかと聞き、みちはそれを否定します。
楓は嘘つかないでと言いますが、みちは嘘をついていません。
楓はその答えに信じられないと言いますが、みちは信じられないですよねとその言葉を受け止めたあと、申し訳ありませんと頭を下げます。
頭を下げられた楓は惨めな気持ちになり、唇を噛み締めスカートを握りしめます。
そして、どうしてみちなの?みちのどこが…と言う楓にみちは涙が溢れ出てこないよう唇を噛み締めながら、もう一度頭を下げます。
そこで楓はドンと手をテーブルに叩きつけ、謝って済む問題じゃないと怒りを露わにします。
あなたのせいで…と言いかけ、少し気持ちを落ち着かせます。
しばらくしてから、楓が浮気のきっかけをみちに聞きます。
それにみちは陽一とのことで悩んでいたことを相談にのってもらったことが最初だと打ち明け、そこで楓はみちが既婚者だと知ります。
その事実に楓は大きなため息をつきます。
楓は何の相談?と聞きますが、みちは顔を俯いたまま、口を開こうとしません。
この場でセックスレスのことを口にするのはなかなか難しいです。
そんな様子のみちに楓は話してくれないと思い、どうでもいいわと視線を外します。
そこで、みちはその相談内容は陽一との2年ほどセックスレスだったことを話すと、楓はたかがセックスレスごときで不倫と激昂します。
しかしみちや誠にとってはたかがセックスレスではありません。
その言葉にみちは泣きそうになりながら、たかがじゃないですと言い返します。
身体の関係がないことだけが辛いわけではない。
そこには女として見られてないんじゃないか?魅力がなくなったのか?とどんどん自分に自信がなくなること。
毎晩ドキドキして布団に入るが、寝息を聞いて期待を打ち破られること。
それが毎日続きご飯が美味しくなくなること。
友達の幸せも喜べず、空が青く見えず、そしてこの生活が続くのかと思うと未来が見えないことを話します。
そして最後にみちは取り戻したかったあの頃はもう戻らない。
もうあんなにも愛してくれたパートナーはいないということを伝えます。
その言葉には楓も身に覚えがあり、ドキリとします。
だから拒否される側にとってはたかがじゃない、心も身体も愛されたかったと泣くのを我慢するみちの表情が、楓は誠の姿と重なります。
あなたがしてくれなくても59話
喫茶店で向かい合うみちと楓。
コーヒーに入っている氷がカランと鳴り響くほどの静寂さが2人の間に漂っているようです。
切実な思いを伝えられた楓はまちの姿が旦那の誠に重なり、動揺しています。
そして、沈黙を破るように楓が口を開きます。
だから?不倫しても仕方ないとでも?と楓に怒りを込めて言われたみちは、ドキッとします。
い、いえ、そういうことでは、すいませんと答えに詰まりながらも、頭を下げます。
楓は頭を下げるみちを不快だと突き放し、手を握りしめ、ガタンと立ち上がります。
そして、何も言わずにみちの前から立ち去り、喫茶店を後にします。
みちは楓の背中を追いますが、楓の表情は読めません。
楓はそのままコツコツと靴を鳴らし歩き続け、しばらくすると足を止めます。
怒りや緊張で手が震え、その手をギュッと握りしめながらも心臓はドクンドクン鳴っています。
楓は震える手を見つめながら、もっと言いたかったはずなのに、傷つけてやりたかったのに…と思います。
そして、泣きそうな顔でなんで震えるのよと震える手を見つめます。
楓がいなくなった席で、みちも自分の手を見つめています。
あんなに震えていた手は今ではピクリとも動いていません。
みちは心も体も愛されたかったなんて言うつもりはありませんでした。
けれど、自分の手を見つめながら、どこか嬉しそうに私こんなに強かったっけ?と思います。
対象的に楓はこんなに弱かったっけ?と俯いています。
みちは喫茶店を出て、マンションの前で我が家を見上げると、電気がついていました。
電気がついていることを確認し、みちは思わずはぁとため息をついてしまいます。
それでも足を進めて、リビングに入るとダイニングに座る陽一にただいまと声を掛けます。
おかえりと返してくれた陽一とみちの間には不穏な空気が流れ、その空気に耐えられなくなったみちは慌てて踵を返して着替えに行きます。
陽一はみちの後ろ姿を見て声を掛けたそうに見つめています。
部屋に戻ったみちは好きだったは人の奥さんに会って、何事もなかったかのように夫のいる家に戻るのはおかしいと思います。
他にももう埋められない亀裂が走って、上手くいっていないことが分かっているのに一緒にいる自分たちも、全部おかしいと結婚指輪を見つめます。
本当はもう…とみちは無言で指輪を薬指から抜こうとします。
でも、色々と考えてしまって指輪を抜けません。
翌日職場で、パソコン作業をしていると、変わったことに気付きます。
はなにこの川上さんて誰だろう?と聞くと、営業の浜崎さんの名字が変わったと言います。
みちはえっと驚きますが、はなはケロっとデータはすべて差し替えたと事務的です。
名字が変わる=離婚が経理部の暗黙の了解で、誰も深くは聞きません。
でも結婚のときとはトーンが全然違うからすぐにわかってしまいます。
みちがトイレに行ったとき、偶然化粧直しをしている川上さんと遭遇します。
みちに気付き、お疲れ様ですと声を掛けられた後、川上さんは離婚したことをみちに直接伝えます。
そして、みちには結婚式のときに色々と手伝ってもらったのに、ごめんと言われ、みちは申し訳ない気持ちになります。
しかしこういうとき、何て言ったらいいのか分かりません。
しかし川上さんはあっけらかんと話し続けます。
よく離婚は結婚の何倍も大変だという話を聞くけれど、本当にその通りで、でも終わった今は結婚していたときより楽だと言う川上さんは笑顔です。
ケンカばかりでも子どものために我慢していたから、スッキリしたと言います。
そして、もっと落ち込んだり、後悔すると思ったけど今が楽しいと生き生きしている川上さんに、みちの心もパァーと明るくなる気がします。
川上さんの目には迷いがありません。
みちは川上さんと話した後、考えます。
以前はなに覚悟を決めた女ほど強い生き物はいないと言われたことを思い出し、一生独りかも、孤独に耐えられるのか、後悔するかもと。
そんな失うことばかり考えていました。
そして覚悟を決めた川上さんの顔を思い出し、みちは不動産屋のチラシが目に入ります。
そのチラシを見たら、1人で暮らす自分の姿が想像できます。
そこから離婚したってただそれだけで、不幸ではないんだと思えるようになります。
みちは家の前でフーと一息ついてからただいまと声を掛けます。
そして、覚悟を決め陽一に子どものこと、私たちのことで話したいことがあると言います。
あなたがしてくれなくても60話
楓は変わらずホテル生活を続けています。
まるで自分の弱さをお酒で誤魔化しているかのように飲んでいた楓。
ワイングラスを手に、空のボトルをベッドに投げ捨てたまま寝ていました。
うつらうつらと目を覚ますと、飲みすぎの代償がズキンと頭に響きます。
頭を抑え、痛っと呟きながら昨日みちが話していた言葉の数々が頭の中に木霊しています。
私自分の傷ばかり考えていたなぁとため息をつき、まさかみちに思い知らされるなんてと思い悲しくなります。
その時携帯がブブブブブと鳴りスマホのディスプレイには母と書かれています。
母からの電話を取ると、明日の祖父の三回忌は来れるのかとの確認の電話でした。
それどころではなかった楓はしばしの間の後にうんと答えます。
すると、母は誠も来られるのかと誠の予定も確認します。
果たして来てくれるのだろうか…返事は保留です。
誠は職場で会議の片付けをしています。
資料をまとめながら、ふと左手の薬指についた結婚指輪が目に留まります。
その時、楓が血相変えて帰ってきてくれって言うんじゃないの?何度も何度もホテルに来るんじゃないの?かと怒って出て行ったときのことを思い出します。
何故自分はあの時楓を追いかけられなかったのだろうか…。
ピコンとLINEの音が聞こえ、スマホを見ると楓から明日法事があるから来れないか?との連絡があります。
行かないと変に思われるよな…と思いながら、誠の頭には楓の両親の優しい顔が浮かんでいます。
いったいどんな顔をして会えばいいのだろうか?
次の日楓と誠は駅で待ち合わせをしました。
いつもの自信に満ち溢れた表情ではなく、不安げな表情の楓。
誠が来たことに気が付き、顔を向けます。
夫婦だと言うのに久しぶりに顔を合わせた2人の間には最初何を話したらいいのか分からず、無言の時間が流れます。
楓から昨日の今日でごめんねと言うと、誠は連名の香典と、お供物を用意していると言います。
昨日の今日で準備をしてくれた誠。
楓はしっかり誠の方を見てありがとうと言います。
それから、汽車のホームへと向かう2人。
楓はいつもの誠で良かったと心底思います。
両親に会うのにギクシャクしたくない。
誠は楓に転職先が三輪商事に決まったことを報告します。
それを聞いた楓は素直に大手じゃない、すごいと褒め、両親が聞いたら喜んで更に誠の株が上がると嬉しそうです。
しかし、誠の顔はどこか浮かない、複雑な表情をしています。
その後2人はほとんど会話なく、母親が話していたお寺に到着します。
誠が来てくれたことに、優しい笑顔で久しぶりと出迎えてくれる両親。
横にいる兄は仕事はどうかと尋ねてきます。
それに、先ほど楓に話した転職先を伝えると驚いてそのことを両親にも報告しています。
両親もそのことをおじいちゃんにいい報告ができると大喜びです。
やはり、誠はどこか申し訳なさそうな顔で、遠慮がちに笑っています。
楓はふと、先を歩く両親の方を見ると2人は腕を組んで階段を登っています。
それを見て高校生の頃両親に恥ずかしいから外で腕組むのやめてよねと言ったところ、父さんと母さんは死ぬまで腕組むぞーと言っていたのを思い出し、あれは当たり前じゃないと実感します。
チラッと誠の方を見ると、視線に気付いた誠と目が合い、気まずくなります。
誠はどんな思いでここにいるのだろうか?と楓は思います。
法事の最後に寺の住職から三回忌ということで…とお話があります。
その話を聞きながら楓は食事会は12時からだっけ?と考えていました。
その時住職の今ある命はご先祖様のお陰ですという話が耳に入ってきます。
1人1人に両親がいて、その両親にもそれぞれの両親がいて、そうやって途方もない命が積み重なって私たちが命をいただいたのです。
今生きていることは当たり前じゃないから、今日と言う日を大切にしてくださいと言われ、楓は感動してしまいます。
帰り道、歩いていると踵に痛みを感じます。
靴擦れしていると思いましたが、時計を確認するともうすぐ汽車の時間です。
誠は振り返って足が痛い?と聞いてくれます。
これ前も痛いって言ってなかった?と聞いてスリッパならあるよと出してくれます。
その行為にズキンと胸が痛くなります。
本当は、ずっと夫婦でいたかった。
誠を失ってしまって本当にいいの?と楓は自問自答しています。
誠はスリッパをやっぱりかっこ悪いよねと申し訳なさそうに引っ込めます。
誠はもう私には愛がないのかもしれないけど、私は…楓は誠と向き合います。
そして誠を失いたくないという気持ちから今までごめんなさいと謝ります。
あなたがしてくれなくても61話
幼い頃、誠は食べ終えた食器を下げながら、母親に父親は何で家事を何もしないのかと尋ねたことがあります。
その問いに母親はお父さんは外で働いて、お母さんが家を守るからいいのだと答えます。
そうすることで家庭がうまくいくのだと言う母親。
もしうまくいかなかったら父親と母親は別々に暮らすのだと。
そんなことになったら世間様に顔が立たないと言う母親の言葉に子どもの誠は首を傾げます。
そして、最後に誠やおじいちゃんおばあちゃんを悲しませてしまうから、そうならないよう努力すると話します。
法事のとき、住職のお経を聞きながら母親都のこのやり取りを思い出していました。
その時楓にお焼香の番だと声を掛けられ、こんな時に何考えているんだと慌てます。
そして、いざお焼香の前に立つと何回額に持っていくのか、思い出せなくなります。
法事後、誠はお香典とお菓子をお供えしてくださいと義母に渡します。
心遣いありがとうと受け取った袋の中には祖父が好きだった羊羹が入っています。
そして、法事のときにお焼香の作法を間違えてしまったことに頭を下げます。
義母はそのことは気にせず、気持ちの方が大事だから手を合わせてくれてありがとうと笑い掛けます。
その言葉に誠はハッとします。
楓と2人きりになった帰り道。
先を歩く誠は、どこかで夫婦はこうあるべきだと思い込んでいたのかもしれないと思います。
最初はシンプルに楓が好きで、一緒にいたくて結婚しました。
けど、今はどうなのだろうか?楓のことどう思っているのだろう?誠は考えます。
後ろを歩く楓の表情はどこか不安気です。
そして、あの時楓のことを追いかけられなかったのは…と自分の中で答えを導き出します。
楓、誠が振り返ると楓は足をひょこひょこ引きずっています。
もしかして足が痛いのかと聞くと、楓は正直に痛いとは言いません。
スリッパならあるけど格好悪いかな?と聞くと、何とも言えない今にも泣きそうな顔になります。
何でそんな顔?と思いながら、やっぱり格好悪いよねとスリッパを引っ込めます。
その時、楓が今までごめんなさいと謝ってきました。
誠は驚きます。
楓は、誠に裏切られたとそればかりだったけど、そもそもは自分が誠に甘えて拒み続けてきたことが原因なのだと気が付きます。
自分はレスのことを甘く見ていた、正直たかがだと思っていたと話します。
しかし、その裏では誠がどんなに傷ついていたか…楓は何も分かっていませんでした。
誠を失いたくないと正直な気持ちを打ち明けます。
その言葉を聞いて誠は男として必要とされる自信が欲しかった、楓には自分がいなくてもいいのだと思っていました。
もう一度チャンスが欲しい、誠の愛が戻るのを待ちたい、変わった自分を見て欲しい、だから家に帰ってもいいかとお願いをします。
その言葉に誠は嬉しくなります。
そして、2人はしばらく見つめ合います。
一方でみちと陽一は…。
みちは陽一に子どものこと、私たちのことで話があると切り出します。
陽一も子どものことでみちと話したいと言います。
言われると思っていなかったみちは驚きます。
陽一はあれから色々と考えて、子どもを作ってもいいと返事をします。
その答えにみちは泣きそうな顔になります。
そして、そのみちの顔に固まる陽一。
みちは作ってもいいなんて言葉、喜ぶと思ったのかと言います。
みちはその場しのぎの言葉も妥協もいらないし、このまま子どもを作ってもまた違うことで傷つく未来が見えます。
それは、泣く赤ちゃんをあやしているのに、全く気にかけない陽一の姿。
私はもうこれ以上すり減らして生きたくないと言うみち。
それはどういう意味なのかと聞かれ、みちの心はズキンと痛みます。
今までは陽一のことが好きだったから、どんなに傷ついても、それを繕いながらやってこられました。
けれども、もう自分の中からなくなった、一緒にいられない、みちは言います。
そして一呼吸置いて、私と離婚してくださいとお願いします。
あなたがしてくれなくても61話
幼い頃、誠は食べ終えた食器を下げながら、母親に父親は何で家事を何もしないのかと尋ねたことがあります。
その問いに母親はお父さんは外で働いて、お母さんが家を守るからいいのだと答えます。
そうすることで家庭がうまくいくのだと言う母親。
もしうまくいかなかったら父親と母親は別々に暮らすのだと。
そんなことになったら世間様に顔が立たないと言う母親の言葉に子どもの誠は首を傾げます。
そして、最後に誠やおじいちゃんおばあちゃんを悲しませてしまうから、そうならないよう努力すると話します。
法事のとき、住職のお経を聞きながら母親都のこのやり取りを思い出していました。
その時楓にお焼香の番だと声を掛けられ、こんな時に何考えているんだと慌てます。
そして、いざお焼香の前に立つと何回額に持っていくのか、思い出せなくなります。
法事後、誠はお香典とお菓子をお供えしてくださいと義母に渡します。
心遣いありがとうと受け取った袋の中には祖父が好きだった羊羹が入っています。
そして、法事のときにお焼香の作法を間違えてしまったことに頭を下げます。
義母はそのことは気にせず、気持ちの方が大事だから手を合わせてくれてありがとうと笑い掛けます。
その言葉に誠はハッとします。
楓と2人きりになった帰り道。
先を歩く誠は、どこかで夫婦はこうあるべきだと思い込んでいたのかもしれないと思います。
最初はシンプルに楓が好きで、一緒にいたくて結婚しました。
けど、今はどうなのだろうか?楓のことどう思っているのだろう?誠は考えます。
後ろを歩く楓の表情はどこか不安気です。
そして、あの時楓のことを追いかけられなかったのは…と自分の中で答えを導き出します。
楓、誠が振り返ると楓は足をひょこひょこ引きずっています。
もしかして足が痛いのかと聞くと、楓は正直に痛いとは言いません。
スリッパならあるけど格好悪いかな?と聞くと、何とも言えない今にも泣きそうな顔になります。
何でそんな顔?と思いながら、やっぱり格好悪いよねとスリッパを引っ込めます。
その時、楓が今までごめんなさいと謝ってきました。
誠は驚きます。
楓は、誠に裏切られたとそればかりだったけど、そもそもは自分が誠に甘えて拒み続けてきたことが原因なのだと気が付きます。
自分はレスのことを甘く見ていた、正直たかがだと思っていたと話します。
しかし、その裏では誠がどんなに傷ついていたか…楓は何も分かっていませんでした。
誠を失いたくないと正直な気持ちを打ち明けます。
その言葉を聞いて誠は男として必要とされる自信が欲しかった、楓には自分がいなくてもいいのだと思っていました。
もう一度チャンスが欲しい、誠の愛が戻るのを待ちたい、変わった自分を見て欲しい、だから家に帰ってもいいかとお願いをします。
その言葉に誠は嬉しくなります。
そして、2人はしばらく見つめ合います。
一方でみちと陽一は…。
みちは陽一に子どものこと、私たちのことで話があると切り出します。
陽一も子どものことでみちと話したいと言います。
言われると思っていなかったみちは驚きます。
陽一はあれから色々と考えて、子どもを作ってもいいと返事をします。
その答えにみちは泣きそうな顔になります。
そして、そのみちの顔に固まる陽一。
みちは作ってもいいなんて言葉、喜ぶと思ったのかと言います。
みちはその場しのぎの言葉も妥協もいらないし、このまま子どもを作ってもまた違うことで傷つく未来が見えます。
それは、泣く赤ちゃんをあやしているのに、全く気にかけない陽一の姿。
私はもうこれ以上すり減らして生きたくないと言うみち。
それはどういう意味なのかと聞かれ、みちの心はズキンと痛みます。
今までは陽一のことが好きだったから、どんなに傷ついても、それを繕いながらやってこられました。
けれども、もう自分の中からなくなった、一緒にいられない、みちは言います。
そして一呼吸置いて、私と離婚してくださいとお願いします。
あなたがしてくれなくても62話
離婚しようと言ったみちを陽一は黙って見つめます。
みちは陽一が何を言うのか、どんな言葉が返ってくるのか、心臓がドキドキしています。
時間が止まったかのよう。
すると、陽一はちょっと待って、離婚て何?と口を開きました。
なんで、そんな話になっているの?俺ら子どもの話をしていたんじゃないの?と言う陽一にみちの顔はガッカリしているよう。
陽ちゃん、私の話聞いてた?と言うみちに、聞いてたよと陽一は怒っています。
何でいきなり離婚なんだよ、俺子どもつくっていいって言ってるじゃん、みちの思い通りにしていいって言ってるのに何が不満なの?と陽一はみちが離婚を切り出した理由が分かりません。
自分はやっている、そんなふうにも聞こえます。
何も言えずにいるみちに陽一は、もしかして、他に好きなやつでもできたのか?だから離婚なんてこと言い出したのかと聞いてきます。
その言葉にみちは悲しそうな顔になります。
そうなんだろう?怒鳴っている陽一。
みちは自分の想いが全然伝わっていないことに、ダメだ…と思います。
陽ちゃん、みちは口を開きます。
急に思い立ったわけでもないし、好きな人もいない、ずっと考えていたんだ悩んでいたをだと打ち明けます。
レスになったときからずっと苦しかった、穏やかに過ごした日が思い出せないくらい。
その言葉に陽一は頭を打たれたような顔になります。
他の人は何も関係ない、これは自分と陽一の問題だから、これからの人生自分は陽一と一緒に歩んでいけ…
と言いかけたところで陽一があぁーーー、もうっと大きな声を出し頭を抱えながらみちの言葉を遮ります。
そして、分かったよ、離婚すればいいんだろう、離婚、離婚と半ば投げやりな態度を取り陽一はリビングを飛び出して行きます。
その子どものような、投げやりな態度にみちはえ?何それ?と思います。
翌日、しょくばでもみちはため息が止まらりません。
おそらく、陽一は昨日実家に帰ったのだろうと思うと同時に、昨日のことをバカだな、と反省します。
みちは陽一に自分の決心がつたわると勝手に思っていました。
こんなに苦しんでいて、こんなに悩んだのだから、と。
しかし陽一にとって離婚の話は青天の霹靂だったということに気付かされます。
だから、あんな言葉が出てきたし、納得できないことにも納得がいくと思います。
みちは会社の屋上で陽一に電話をかけます。
しばらく呼び出し音が続いたあと、はいっと陽一が電話にでました。
みちは陽一にもう一度ちゃんと話がしたいことを告げます。
陽一は分かった、8時にはそっちに行くと冷たく素っ気なく返事をし、すぐに電話を切ってしまいます。
電話が切れた後に、みちは陽一のこんな冷たい声は初めて聞いたと思い、悲しくなります。
家に帰り、みちはソファでクッションを抱きしめながら陽一の帰りを待ちます。
時計は10時、約束の8時から2時間も過ぎています。
もしかして、来ないのでは?来なかったら話し合いができない、そんなことが頭を巡りますが、それを振り払い何度でも言おう、話し合おうと、違います。
みちの離婚してくださいと言う言葉は簡単に出た言葉ではありません。
みちの大きな決断です。
その時、玄関からガチャッと扉が開く音が聞こえてきます。
顔を覗かせると、頬を赤く染めた陽一がみち〜と抱きついてきます。
酔っ払っている陽一をみちはお酒臭いと押しのけます。
しかし、すぐに肩を捕まれ、唇を重ねようとしてきたので、やめてっと強く陽一の胸を押します。
話がしたい、苛立つみちの表情。
陽一は力いっぱいみちの手首を掴みます。
痛いと言っても離してくれません。
その時、俺…と陽一が話し始めます。
コメント